先細りするETF購入
一番新しいデータによると、日銀のETF購入は1回につき131億円となっていました(11月1日実施分)。
これは最も多かった2012年5月期(1回あたり397億円)に比べると3分の1以下の規模です。
市場に先細りの懸念が生まれるのもやむを得ないところです。
そもそもこのETF購入は資産買い入れオペの一環として2010年暮れから始まったものであり、最初に予算・計画ありきのお役所仕事です。
現在のところこの数字は2兆5000億円となっており、勿論この数字は守らなければならない厳格なものではないものの、すでに購入した資産残高が2兆3827億円となっているため、そろそろこのオペも限界に近づいてきたのではないかと見られています。
異次元緩和発動後の購入額
それなら予算・計画を増やせばいいではないかと思うのが一般的ですが、とかくお役所仕事というものは柔軟性に欠け、とりわけ金融政策の最高責任者である日本銀行となるとそう簡単には行きません。現在進行中の異次元金融緩和の場合、総裁自らが“戦力の逐次投入は行わない”、などと宣言して、あたかも動かざるごと山の如しという感ですから、何か大きな理由付けが必要なのでしょう。おまけにオーナーは日本国政府ですから、なんらかの政治的な企みが加わらざるを得ないところです。
それでは異次元金融緩和発動後の日銀ETF購入が、市場にどういう効果をもたらしたのかを見てみましょう。まずは株価の動きとETF購入額の推移です。
さらにこれを加工して購入が行われた日の引け値を用いて、この間(2013年4月4日から10月31日)の推定平均コストから度数分布図を描くと次のようになります。
さしあたり現状の株式市場の下支え要因となっている可能性が高そうです。
日銀の功績
しかしながら異次元緩和後導入後の日銀ETF購入総額7355億円(11月1日分と4月4日分を加えると7817億円)というのは、それほど大きな金額ではありません。
投資主体別売買動向を見ると4~9月6か月の外国人は6.2兆円の買い、これに対して日本の金融機関の売りが2.3兆円(この中に日銀のETFも含まれていますから、実質的な売りの数字は結構大きかったことがわかります)
となっていますから推定8000億円弱の金額は決して市場を揺るがすものではないといえるでしょう。
ただその一方で、一つ功績を上げるとすれば、株式ボラティリティの低下が挙げられます。
次のグラフは4月以降の日経VIのグラフですが、5月の相場急変とともに、ボラティリティが急騰したことがわかりますが、その後、時間の経過とともに静かに低下したことが確認できます。
日銀によるETF購入は、大体相場が下落している日に行われるのが通例となっており、このことは市場のボラティリティのマイナス側を減少させる効果があると考えられています。
実際、こうしてデータを遡って観察してみると、日銀の普段のオペレーションが少なからず市場全体のボラティリティ低下、つまりはリスクの減少に寄与した可能性が高そうです。
リスクの低下がリスク・オンを呼ぶ
投資理論では、リターンの上昇だけではなく、リスクの低下もその資産への投資を呼び込むとされています。
日銀の行動に照らし合わせてこのことを解釈すれば、仮に株価を釣り上げていくようなETF購入を行い、それがリターンの上昇につながり投資をどんどん呼び込んでいったとしても、それが市場の安定化に寄与せずボラティリティの上昇を招いたとすれば、やがてはリターン上昇+リスクも上昇という組み合わせとなり、元々目指していたリスク・オンの流れを作るには至りません。
しかしながら現在行われているように相場の下落時に日銀がETF購入を行い、市場のボラティリティを低下させる効果を生み出していれば、やがてはこれがたとえリターンが向上しなくても、リスク値の減少とともに目指すところであるリスク・オンの流れを生み出すことになります。
だとすれば、1回のETF購入金額がたとえ減少したとしても、市場ボラティリティが20%台前半にまで低下した現状は、さほど心配することではなく、むしろ重要なのは市場参加者が考える株式が持つ期待リターンの高さにあると言えるでしょう。
翻って現在発表が続いている2013年度第2四半期の企業決算の動向を見ると、明暗がはっきりと分かれる結果となっているようですが、その中でもとりわけ目についたのが“資源不況”という言葉です。米国ではキャタピラー、日本ではコマツ、他にも海運各社がこのあおりを受けた格好となっていますが、その真偽はともかく、いくつかの業種では期待リターンの低下がクローズアップされた形となっています。
しかしながらこれが一過性のものであるならば、これだけ株式市場のリスクが低下した現在のボラティリティ水準が続くならば、やがてリスク・オンの流れが再燃してくる可能性が高いといえるでしょう。いよいよ日本銀行のこれまでのオペレーションの成果が問われる局面です。
<了>