ユリウスさんのブログ

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睾丸の大きさと育児参加に関連あり -大きいほどよくない-

 昨日、性別決定の新たな遺伝子のことを書いた。その関連で性役割についても触れた。たまたま、本日のAFPBBNewsが睾丸の大きさを比較した研究で
1 「睾丸の大きい男性が常に良い父親でないとはいいたくないが、我々のデータからは、そうした男性の方が、子どものおむつの取り換えや入浴、食事の支度、医者へ連れて行くといった子育てへの参加が少ない傾向がうかがえる」
2 「人類が繁殖努力に注ぐエネルギーは限られており、生殖か子育てのどちらか一方に注がれる」
3 「育児にエネルギーを注ぐほど生殖能力は下がるし、またその逆もいえる」
という米国の興味深い研究結果を伝えている。

 まず、下の記事をお読み下さい。その後で翔年の物言いも聞いていただきたい。




 このAFPBBNewsはBCな話だと思う。BCな話とはBiologially Corret(生物額的に正しい)だということ。ところがこのニュース記者は科学記事なのに、睾丸が大きいとか小さいとかいうだけで、どれほどの差異があるのか、体重比率で大きさを比較したのかどうかなど、数字を使って記事を書いていないので、単なるお話になってしまっているのが残念である。

 翔年はもう少し話に尾ひれをつけて、数字を示しながら科学的な味付けを試みたい。
 
竹内久美子著「BC!な話、 日高敏隆著「人間はどこまで動物か」



 人類の最も近くに生息するカラスの睾丸のことを、例によって竹内久美子著「BC!な話」で教えて貰った。

A群 体重の割りに睾丸が大きく、繁殖期のつがいが密集してすを作る、そしてメスが頻繁に交尾し、オスがメスをあまりしつこくガードしないタイプ。ガードしないという事はメスの浮気を許すと読み替えてもらって結構。

ミヤマガラス  体重534g  睾丸17.67g(体重比3.3%)
コクマルガラス 体重234g  睾丸5.10g(2.2%)


B群 体重の割りに睾丸が小さく、繁殖期のつがいがばらばらにしか巣をつくらない、メスがあまり交尾しない、しかしオスはメスをしっかりガードするタイプ。

アメリカガラス 体重756g  睾丸1.14g(0.2%)
イエガラス   体重290g  睾丸1.199g(0.7%)


 何故こんなにも睾丸の発達ぐあいに差があるのか? 科学者は浮気(EPC=extra-pair copulation)の回数に目をつけた。鋭い。A群はメスが頻繁に交尾するとはいうものの、すべて夫婦間であるとは限らないと見破ったのである。ということは、読者ももうおわかりであろう。彼女の夫もまたEPCに出かけているという訳。彼等はメスをガードしていてはEPCにでかける暇がなくなってしまうからじゃないのかな?(笑) 
 ただし、留守中におこったであろう事態で自分の遺伝子ののコピー(子ども)ができなくなっては困るので、頻繁な交尾によって防ごうという戦略をとっているのである。
 それでは、ミヤマガラスの方がコクマルガラスより睾丸比率が大きいのはなぜか? それは巣が接近しすぎていることにある。隣の家が近いということはEPCの機会が高まるということか。(笑)

 B群のカラス達はつがいが巣を分散させてつくる。そしてつがいがそれぞれ独自の、少なくとも直径数百メートルにも及ぶ縄張りを持っているから、A群のような事態は起こらないし、する必要もないから、睾丸が発達しなかったというわけ。


 さて次は、人類のつがいの場合は、どうなっているか? である。 つまり戸籍上の父親と生物学上の父親が一致しないケースがどんな割合で、どんな状況下で起こっているか調べた記録がある。調査の結果はたいていの場合、せいぜい数%どまりであった。

 ところが、イギリスの北西部と南部の高層アパートでは20%~約30%という高い数値だった。

 イギリス人だけのこととかたずけられないために、フランスではこんな質問をした調査データがある。
Q 過去1年間に二人以上のパートナーと交渉を持ちましたか?

A群 住宅の立て込んでいるパリなどの都会で「ウイ」と応えた人の割合
    男性: 18.2%
    女性: 10.4%

B群 隣の家と距離のある田舎の人でウイと応えた人の割合
    男性: 10.4%
    女性: 4.1%

 結果はカラスの行動も人類の行動も似ていると言わざるを得ない。(笑) そうなるとカラスの四種と同じように類人猿三種と人間の睾丸の体重比率が知りたくなるのが人情というもの。こういうことなら、科学者に抜かりがあろうはずはありません。資料によって示そう。

チンバンジー   体重 44.3kg  睾丸 118.8g(0.27%)
人間        体重 65.7kg  睾丸 40.5g(0.06%)
オランウータン  体重 74.6kg  睾丸 35.3g(0.05%)
ゴリラ       体重 169.0kg  睾丸 29.6g(0.02%)

 チンバンジーは身体が一番小さいのに睾丸は群を抜いて大きいことにご注目あれ。カラスのA群といい勝負だ。


 この物語もいよいよ最終段階に指しかかってきた。ダメ押しとして、一回の射精あたりの精子数を見ておこう。

チンバンジー   6億3000万個
人間        2億5300万個
オランウータン   6700万個
ゴリラ         5100万個

 チンバンジーが他を圧倒、ゴリラは控えめであることは変らない。が、人間とオランウータンとの間は大きな開きが生じている。人間はチンバンジーと似た事情があるのだろうか。ゴリラはどこが違うか?
1 睾丸が体外にぶら下がっているのはチンバンジーと人間
  これは精子競争が激しいために精子をより長い期間生きながらえさせておくための冷温保存機能だと考えられる。体外に陰嚢がでているし、陰嚢にはヒダという冷却フィンの仕掛けがある。

2 チンバンジーは複数のオスと複数のメス、そして子ども達からなる百頭くらいの集団で暮らしているが、オスとメスに特定の関係がない。メスは発情すると「来るものは拒まず」方式である。この事態にオスの遺伝子は危機を感じ、精子の製造能力を高めるざるを得なくなっているのだ。

3 ゴリラはシルバーバックと呼ばれるオスが複数のメスとその子ども達を引き連れてハレムを形勢しているからオスのライバルはいない。問題があるとすれば、それはハレムの防衛である。ハレムを持たない若いオスがメスを奪おうと狙っているから。防衛には腕力が物を言う。ゴリラのオスは睾丸を発達させる代わりに体を発達させたのである。

4 数字がゴリラとチンバンジーの間にある人間とオランウータンは、オスとメスとに一定の関係がありながら他方ではそうではに部分がある。それらの状況は睾丸の対体重比や射精精子数がチンバンジーとゴリラの中間であるという現象によく反映されている。

 こういうお話が竹内久美子さんが言う「BC!な話」である。まだまだ興味ある物語は尽きないが、今回はここまでとします。


※精子競争: 自分の精子で卵を受精させようとする雄個体間の競争。交尾したのち雌の生殖口を交尾栓でふさいだり、トンボ類のように交尾後もつながったままで飛行して、他の雄の精子の進入を防いだり、カワトンボ類のように先に交尾した雄の精子を掻き出したりといった行動を指す。このほか、霊長類の優位雄がより大きな精巣を発達させることも、精子の量が多いほど受精の確率が高まるので、精子競争の一種と考えられる。



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