ゴルフと株は先生が多いといわれます。親切心で悪気はないのですが、教えられるほうにとっては、いいことばかりではありません。ゴルフも株も、一部分を直しただけでは駄目で、逆に変な癖が付いたりします。
私は山が好きで、百名山登山も果たしました。そのときに同行してくれた人は、年は若いのですが山のベテランで、挨拶の仕方とか、ゴミを拾えとか、石を落とさないように歩けとか、マナーにとても厳しかったように記憶しています。
最近の株式ブームで、本欄にも新しく株に興味をお持ちの方が、多く見受けられるようになってきました。ただ、まったくの新人は意外と少なく、以前にやっておられた方が多いようで、熊さんが冬眠から目覚め、「さあこれから鮭を……」という行動のようにも見受けられます。
株の知識も経験もそれなりにお持ちですが、眠っている間の世の中の動きが読めないのではと想像しています。そんな方に、いくらマナーはどうの投資法はどうのといってみても仕方のない話です。
最大の関心事は、株価の位置と方向、それに銘柄ではないかと思います。
ところが教える側にとっては、これが一番難しくて厄介です。賭場で次に出る目を当てるようなものです。次が6といってその通りになったら、この賭場でやる人がいなくなります。
株価の位置と方向、それに銘柄こそが株の命、儲けの源泉情報なのです。
最近私の目にとまった事例です。ある証券会社のレポートで、その会社のアナリストが、5月末の株価を1,000円ほど下がった水準としました。「4月も同じように大幅な下げを予想したが当たらなかった。ただ、下げの理由は変わらないので、4月に予想した水準までの下落を予想する」とありました。
強気派が多い中で、自分の見通しの誤りを認めた上で、なお自分の信念を貫こうとする姿勢には、大いに打たれるものがありました……。ただ下げの要因が私の解釈と異なり、何よりも需給に触れていません。多分外れるとの期待と、彼の立場を心配する気持ちとが交差するなか、相場の動きはやはり反対方向です。会社でも問題になったのでしょう。名指しではなかったようですが、「アナリストのレポートは個人の見解です」と、なんとも奇妙な警告文が会員に送られたようです。
私は、相場の位置と方向は、絶えず頭にあります(私の相場見通しについては、4月27日に本欄で発表した「5月相場の見通し」をご覧ください)。それでも、自分で相場を動かせると思ったことは一度もありません。
昔読んだ経済学の書に「ものの値段は、短期には需給で、長期にはコストで決まる」とありました。今の経済学から見れば問題ありなのでしょうが、「株価は、短期には需給で、長期にはファンダで決まる」と置き換えると、株価の見通しになります。
この場合注意する点は、需給とファンダメンタルによる株価との間には、時差があることです。その時間差は1ヶ月の時もあれば、1年を超えても一致しないこともあります。ファンダメンタルをどう読むかで需給が決まるわけですから、要因の分析のほうが大事という人もいます。ただ、要因は同じでも、すべての人が同じ投資行動を取るとは限りません。信用取引の期日、損切、会社の持ち合い解消などは、そのときの値段にかかわらず、売り買いする場合もあります。
需給はすべての投資行動を集約したものです。したがって需給に関係する情報には価値があります。M&A、自社株買、増資、株式分割、増減配といった、需給に直接関係する情報で株は大きく動きます。それだけに情報の管理は厳しく、また漏洩に対する罰則も強化されてきました。
全体の需給情報として、毎週発表される主体別投資動向は、全体の需給を知る上で大変重要ですが、後追いになります。私はニュース解説、アナリストの分析などで、需給に関する報道には特別に注意を払い、予測に役立てるようにしています。
最近の大型株の動きを見ていると、まるで木の葉のように軽く舞い上がっています。今まで売りに回っていた国内法人が、債権から株にシフトしてきたことをうかがわせます。国内法人が売りを止め買いに加わるだけで、あのように舞い上がるわけですから、そこにインフレで炙り出された富裕層の資金が加われば、市場から売る株が姿を消すのもそう遠くないような感じです。
最後に銘柄についてです。
私は作家志望で、株についての本も出していますが、その中でも、選定方法については詳述しても、銘柄の推奨はしないと明記しています。自信がないことにもよりますが、利害に直接関与する銘柄情報は、後で必ずしこりが残ります。「みんかぶ」にも、銘柄についての掲示板や予想欄がありますが、私は参加したことがありません。
私は、銘柄情報より相場の位置と方向のほうが、投資をする場合より重要だと思っています。相場の位置と方向が合っていれば、銘柄の選定で間違えても、長い目で見れば大きな損にはなりません。逆の場合には大損に繋がる場合が多くなります。
とはいっても、銘柄を教えない先生の話なんか、聞きたくないという生徒も多いようです。やはり先生には向いていないのかも……。