店内でおにぎりを握る石曽根巧さん=6日、岩手県宮古市の「ローソン県立宮古病院前店」で

大手コンビニエンスストアが東日本大震災以降、店内で手作りするおにぎりの販売を全国の店舗で拡大している。震災直後、調理工場の停止や物流の寸断で食料品が不足する中、備蓄米があった店が提供したおにぎりが住民に喜ばれた経験を生かしている。
「『こんな時に温かいおにぎりが食べられるなんて』と喜んでくれたお客さんの言葉が忘れられない」。津波被害が大きかった岩手県宮古市の沿岸部近くにある「ローソン県立宮古病院前店」オーナーの石曽根巧さん(35)が、震災当時を振り返る。
高台にある同店は被害を免れたが、工場で製造される弁当やサンドイッチなどの供給が止まり、震災翌日に食料品が底を突いた。ただ震災の一カ月前から、店内の調理室で握ったおにぎりの販売を始めていたため、二十~三十キロの米が備蓄されていた。停電が復旧した震災三日後には、手作りおにぎりの販売を再開した。
具が入っていない、のりで巻いただけの塩むすびで、一個百円。それでも炊きたての米で作ったおにぎりは、一日百五十~百八十個がすぐに売り切れた。石曽根さんは「自分の仕事が地域の人たちからこれほど必要とされているとは思わなかった」と話す。
ローソンは二〇〇九年から、作りたての味を提供するため、東北の一部店舗で手作りおにぎりを販売。同店を含む十二店が震災直後に温かいおにぎりを提供できた。「地域の生活基盤としてのコンビニの役割を再認識した」と担当者。
この経験を踏まえ、同社は手作りおにぎりの販売を現在、全国の四百四十店で行い、来年二月までに千二百店に増やす計画だ。
首都圏では震災当時、ミニストップが二百六十店で手作りのおにぎりを販売し、帰宅困難者らに喜ばれた。
同社も一〇年から、一部の店で販売。一個百五十八円と工場で製造されたおにぎりより一~二割高いが、今年一月の売り上げは前年同月比一割増と、災害時以外でも人気が高まっている。
このため、販売店を現在の千九百店から、四月末にはほぼ全店の二千百店に増やす予定。担当者は「作りたてで添加物が入っていない安心感もあり、女性や高齢者らが固定客になっている」と話す。