【書評】『誰も語れなかった沖縄の真実』惠隆之介著

AAI Fundさん
AAI Fundさん


高い見識と精緻な事実認識

 中国は沖縄侵攻の機会を狙い、アメリカは防衛線内に沖縄を含めるかどうかを迷い、日本は基地反対を叫ぶ沖縄の県民意識とアメリカのアジア戦略の間を漂流している。

 そんなことでどうなるのかについて、本書は凡百の沖縄論を圧倒する広い視野と高い見識と精緻な事実認識でかねて知りたかったことを述べている。

著者は沖縄出身、海上自衛隊二尉、琉球銀行勤務に加えて、米国国務省の国防戦略研修を経ているので、目からウロコの連続だが、なかでも県民意識についての叙述は他県民には書けない領域に踏み込んでいる。

 沖縄の人は沖縄のことを何もかもワシントンまかせ、東京まかせにして自分たちは基地負担の過重を叫んでいれば優遇措置が幾重にももらえると思っているのかどうかについて、そうなってきた歴史を通観する著者の目は鋭い。

 まず、もともと冬がないから物の見方が一面的で、左翼教条主義に染まりやすいとの指摘が面白い。

 つぎに、長く続いた尚王朝の圧制による自主性の消失と島津藩と清に両属する外交の歴史が沖縄人の心に大きく影響していると手厳しい。

最後に、著者は警告する。

復帰後は日米双方からのご機嫌取りがあり、その過程でご機嫌取りに依存する勢力が肥大しているが、いま、日米双方に沖縄を見限ろうとする気持ちが生まれつつある、と。

 そういえば、すでに20年前、沖縄県知事がワシントンを訪問したとき、現地の新聞はこう書いていた。

 知事「沖縄の県民所得は本土の半分である」

 先方「労働時間も半分である」

 知事「沖縄は観光産業を興したい」

 先方「いま駐留しているアメリカンボーイが、将来、新婚旅行にくるようにもてなしてくれ」

 知事「広くアジアと手をつなぎたい」

 先方「アジアの人々の所得は沖縄のさらに半分だが、どう付き合うつもりか」

 知事「………」

 いま沖縄問題は、焦眉の急にある。





AAI Fundさんのブログ一覧