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G20サミット 火薬庫ギリシャ、翻弄 世界経済、踊る会議

4日に仏南部のカンヌで閉幕した主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)は、欧州債務危機の発火点であるギリシャ情勢に翻弄(ほんろう)された。世界全体の成長戦略・雇用対策・通貨制度改革・金融規制改革は、ほとんど話し合われることなく、危機克服の切り札である欧州金融安定化基金(EFSF)増強に不可欠な新興国の協力取り付けも不発に終わった。08年秋のリーマン・ショックを機に、世界の国内総生産(GDP)の8割を占める20カ国の首脳が集まり、危機対応や成長戦略を話し合うサミットの意義自体も問われる異例の展開になった。【カンヌ伊藤智永、谷川貴史、会川晴之】

 3日午後に開幕したG20サミットは、ギリシャ内政の混迷との同時進行だった。会議の傍聴者によると、「首脳たちには、最新情報が頻繁に報告されていた」という。ある欧州首脳が会議中「パパンドレウ氏がこのまま首相の座に居続けるのは難しい状況だ」と、未確定情報を勇み足で披露する場面もあり、首脳たちが世界経済情勢を話し合うはずの貴重な機会は、破綻寸前の小国を巡って一喜一憂する場になってしまった。

 結局、ワーキングランチを含めて約3時間の会議の「8、9割」がギリシャ問題に費やされた。国際通貨制度改革の議論をする時間がなくなり、とりまとめ役のメルケル独首相が終了間際に慌てて文書の項目だけ読み上げるドタバタぶりだった。

 パパンドレウ首相が国民投票撤回へと動いたのは「欧州首脳の圧力が利いた」との見方もある。サルコジ仏大統領は初日の会議後の記者会見で「昨日、仏独両国からギリシャ政界全体に送ったメッセージが自覚を促した」と強がったが、「圧力」の中身は投票日前倒しと否決への警告だけで、投票実施は容認せざるを得なかった。

 パパンドレウ首相は夏以降、ストライキの多発で野党との大連立や国民投票実施の意向を表明しており、必ずしも「唐突な提案」とも言えない。欧州首脳らが欧州全域の合意形成に手間取り、当該国の内政や民意など想定すべきリスクを防げず、無用の混乱を招いた失態は免れない。

 「次の火薬庫」と目されるイタリアでも、与党内からベルルスコーニ首相退陣論が台頭。スペインは今月20日の総選挙で政権が交代する可能性がある。サルコジ仏大統領も来春の改選を控え、支持率低迷に苦しむ身だ。

 首脳会議で野田佳彦首相は「もはや財政・金融問題というより政治の問題だ。日本は欧州の政治指導力が発揮されれば協力を考える」とクギを刺し、経済危機克服に伴う政治リスクに懸念を表明。首脳会議に出席したインド政府高官も「ユーロ圏には明らかに構造的欠陥がある」と指摘するなど、非欧州各国には、欧州域内の政治問題に引き回されたという不満が残った。

 一方、G20は、ギリシャの突然の破綻という事態に備え、国際通貨基金(IMF)の資金基盤強化など現実的な対応の検討にも入った。欧州債務危機を受けて世界的な金融・経済危機が再燃する懸念が高まっているためだ。

 さらに欧州では、ギリシャのユーロ圏離脱の可能性をめぐる議論も始まっている。ただ、欧州連合(EU)の条約には加盟国の離脱は定められているものの、ユーロからの離脱は想定していない。このため、ギリシャがEU諸国との約束を守らなかった場合でも、ギリシャに「ユーロ離脱」を勧告することや強制することはできない。

 EU脱退は、補助金打ち切りなどギリシャにとって不利益が大きく、踏み切る可能性は皆無だ。ギリシャの「居直り」の手法を、窮地に陥った欧州諸国が模倣するような事態になれば欧州の信用は地に落ちる。欧州の統治力が問われている。

 ◇「金庫」新興国は様子見

 「欧州が回復しなければ、世界経済は回復しない。(欧州債務危機打開への)包括策の着実な実施を望む」

 2日夜、中国の胡錦濤国家主席はカンヌで記者団に語った。サルコジ大統領はG20前夜に胡主席を夕食会に招くなど手厚くもてなし、3日のG20首脳らの記念撮影でも胡主席は中央のサルコジ大統領の隣に納まった。

 「中国の役割を重視している」とサルコジ大統領は持ち上げたが、胡主席はG20での演説で「先進国の国債を買い増して国際経済の安定に貢献してきた」と強調する一方、新たな支援策については言及しなかった。

 ギリシャ情勢の緊迫化で、従来以上に危機拡大防止に向けた「安全網」整備の重要性と緊急性が高まった。先月末の包括策に盛り込んだEFSFの規模拡大では、資金源として中国など新興国に期待している。しかし、G20の一連の会合で新興国はギリシャの混乱を前に様子見を決め込んだようだった。

 3日には、中国、ロシア、インド、ブラジルなど新興5カ国(BRICS)首脳が会合を開き、共同歩調をとることを確認した。欧州危機をたくみに利用し、国際社会の中で新興国の発言権を高めるのが狙いだ。

 欧州諸国が狙いを定めるのが、外貨準備高が世界1位で資金力が豊富な中国だが、中国には「見返りが無いと、国内世論を抑えるのは難しい」(IMF幹部)との国内事情もある。中国の朱光耀財政次官はEFSF支援策について「具体的な計画はまだない」とし、EFSF債券の購入についての議論は「時期尚早だ」と述べた。

 中国にとって欧州が「重要な投資先」(朱次官)との位置付けは変わっておらず、EFSFの重要性も認めている。しかし、欧州債務危機の一段の拡大が懸念される中、欧州側の対応を見極めたいとの判断もある。

 一方、欧州側の準備不足を指摘する声も多かった。日本政府関係者は「欧州から詳しい説明はなく、具体的な議論に入れなかった」と話す。

 欧州側には、「政治的な見返りは交渉の前提ではない」(ユーロ圏財務相会合議長のユンケル・ルクセンブルク首相)との考えもある。89年の天安門事件を機にEUが実施している対中武器禁輸措置の撤回などを中国が求めてくることに警戒心があるためだ。

 欧州側は週明け7日にユーロ圏財務相会合、8日のEU財務相理事会でEFSF拡充策の詰めの作業に入るが、G20首脳だけでなく、市場の不安心理を払拭(ふっしょく)するには、早急に具体的な対策を打ち出す必要に迫られている。

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 ◆G20首脳宣言骨子◆

・世界経済が直面する試練に対し協調して行動することを決意

・欧州危機で金融市場の緊張が高まり、新興国経済も成長が鈍化

・市場によって決定される為替システムへの迅速な移行と、通貨安競争の回避を再確認

・ギリシャ支援を含めた欧州危機の包括的対策の迅速な実施を要請

・国際通貨基金(IMF)と欧州連合(EU)によるイタリア監視を歓迎

・次回会合までにIMFの資金基盤強化の検討を財務相に指示

・行動計画で、日本は10年代半ばまでに消費税率を10%まで引き上げることを明記【共同】

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 ◆欧州債務危機を巡る今後の主な予定◆

11月 4日  ギリシャ国会で内閣信任投票(日本時間5日朝予定)

    7日  ユーロ圏財務相会合(ブリュッセル)

12、13日  アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議(米ハワイ)

   28日  米EU首脳会議(ワシントン)

   末めど  欧州金融安定化基金再拡充策の詳細合意

12月初旬めど ギリシャに80億ユーロの第6次融資

    9日  EU首脳会議(ブリュッセル)

   19日  ギリシャの国債償還期限開始(12月中に計約800億ユーロ)

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