ここ数日の株価の大幅な上下で、オプションを扱うトレーダーが損失を出している例を耳にする。 いつも好成績をおさめているカリスマ・トレーダー氏ですら、¥7 M 以上の損失とか。
株価が大幅に下落した場合、デリバティブ(金融派生商品)である先物やオプションも影響を受ける。例えば日経225先物は、日経平均と連動して大きく値を下げるはずである。しかし、先物と現物指標の間には裁定取引が働くので、両者が大きく乖離することは考えにくい。他方、オプションの方は、プレミアムが大きく変動する。時には価格が何倍にも跳ね上がる例が見られたりする。IVで表されるボラティリティーという変数が上昇するからである。まさに、ハイリスク・ハイリターンの典型である。
ここでは、株価急落の場面で威力を発揮する「バック・スプレッド」というポジションを考えてみることにする。 誤解を避けるために、このポジションの有効性を広めたご本人のブログを引用しておく。 <<http://blog.livedoor.jp/actok/>>
まず、「バック・スプレッド」というネーミングについてコメントしておく必要がある。
通常の定義によれば 「バック・スプレッド」は、同じ限月でプレミアムの高いオプションを売り、プレミアムの安いオプションをより多くの数量買い入れる。具体的には、5P10500 を1枚売り 5P10000 を3枚買う といったスプレッド・ポジションである。レシオ・スプレッドの逆と言った方が判りやすい人がいるかも知れない。{5P は、5月限のプットを表わし、次の数字が権利行使価格を表わしている。}
ところが、現実にバック・スプレッドと呼ばれているポジションは、期先の買いを使う場合が多い。従って、ネーミングとしては、ダイアゴナル・スプレッドと呼ぶべきであると考えるのだが、細かい詮索は抜きにする。
現在だと7P6000 なんて銘柄をどっさり買い込んでおくことになる。ここで6000円という権利行使価格はこの限月に存在する最低金額の権利行使価格である。
権利行使価格が6000円ということは、7月のSQ日に日経平均が6000円以下になった時に、日経平均を6000円で売る権利を購入することになる。
2008年10月28日の日経平均安値が 6994円なので、6000円という とても起こりそうにない指標値に投資することになる。実に摩訶不思議な投資ということになる。
何故、実現しそうもない銘柄に買い投資するのか? ヒントは、証拠金にある。
原資産が急激な下落を示すと、プット売りをしている人の必要証拠金は急増する。機関投資家なら、非常に大きな資金量があるので、さほど問題にならないかもしれない。 ところが、資金効率を高める必要のある投資家は、ポジションによっては証拠金の余裕が少なくなる。 こんな状況で、必要証拠金を劇的に減らす効果のあるのがFOTM(ファー・アウトオブザマネー)の買いである。 買いたいという需要が増大すれば、価格(プレミアム)が高騰する。別の表現を使えば、IVの急上昇である。
ここでFOTMのプットを売る場合の @プレミアム :必要証拠金 (倍率) をカブドットコムのサイトから引用しておく。(4月30日大引けに対応)
5P9250 @1 :9950円(9.95倍)
6P7500 @1 :10340円(10.3倍)
7P6000 @1 :10510円(10.5倍)
これらに比べて、ATM(アット・ザ・マネー)の場合は、
5P11000 @145 :379160円(2.61倍)
上記の比較で判るように、FOTMの買いは、ATMの買いと比べて最大で4倍近い証拠金削減力が発揮されることになる。 つまり、資金効率良く証拠金を削減する可能性があるということである。
株価暴落に先立って、FOTMのプットを大量に買い込んでいれば、スプレッドの残りの銘柄の損失をカバーして余りのある大きな利益が得られることになる。{ちなみに、上で引用したカリスマ・トレーダー氏は現在、7P6500 を 1,162 枚買い持ちしている。}
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http://minkabu.jp/blog/show/234112