証券取引等監視委員会のサイトから
No5「不公正ファイナンスへの対応(その2);箱企業悪用のメカニズム」
証券取引等監視委員会総務課長 佐々木清隆
前回は、第三者割当増資等の発行市場でのファイナンスを悪用する「箱企業」の特徴についてご紹介したが、今回は箱企業が証券不公正取引でどのように悪用されるのか、そのメカニズムについてご紹介したい。
前回ご紹介したとおり、箱企業は経営不振から資金調達に困難をきたし、またその株価も下落している。このような箱企業は、取引所に上場されていることで公開市場から調達した資金を社外に流出させることを目的としていることから、上場廃止になることを何としても避ける必要がある。例えば債務超過、監査法人からの不適正意見や監査意見の不表明、時価総額基準を下回ること等による上場廃止を阻止することが必須となる。そのために第三者割当増資等のファイナンスを含めた企みが行われることになる。
株価について言えば、第三者割当増資を含め新株の発行は、一株あたりの利益が減少するため、通常は株価の下落に繋がることが多いが、箱企業のように既に株価が下落し企業の存続に懸念がある状態では、資金調達の目途が立ったと評価され、逆に株価が上昇することも少なくない。また箱企業を実質支配している特定の株主及びその周辺のグループが、第三者割当増資の前後で株価操縦により株価を人為的に高騰させることもある。あわせてインターネット上の掲示板等で、株価の上昇に繋がるような噂を流し一般投資家による買付けを煽る風説の流布も行われる。このような株価の上昇を見て、一般投資家による投資が増加しさらに株価の上昇に繋がる。さらに、第三者割当増資の公表の前に当該箱企業の株式を取得して、公表後に株価が上昇したところで売却するインサイダー取引が行われるケースもある。
こうして第三者割当増資等により調達された資金は、開示資料の上では、「借入金の返済」、「M&A等事業再編」等に利用するとされているが、実際には、社外への投融資等の形で流出し、翌期には特別損失が計上され、当該箱企業の財務内容はさらに悪化することになる。箱企業を悪用する立場の人間からすれば、上場廃止にならない程度の財務内容を維持しながら当該企業を悪用し続けるが、中には会社更生等に至り、当該箱企業の粉飾が明らかになる事例も散見される。
このような箱企業も上場企業である以上、監査法人監査を受けているが、財務内容の悪化等からGC(going concern)に関する注記が付けられ、また大手監査法人から小規模監査法人に交代する事例も少なくない。監査法人、会計士の中には、箱企業の「駆け込み寺」になっているようなところも見られ、上記のような不公正取引を看過、あるいは幇助しているような状況も見られる。
以上のように、第三者割当増資等のファイナンス自体は会社法上の手続き等に則って行われてはいるものの、箱企業の株式の流通市場においては多くの不公正取引が複合的に行われる事例が少なくなく、証券不公正取引のオンパレードといった状況である。
さらに箱企業に至る過程で、当該企業の株主構成は大幅に変わり、仕手筋や反社会的勢力とつながりのある者が実質的に支配していることが多く、また経営陣もそれらの実質的な株主の息のかかった者が送り込まれてきている。したがって箱企業のコーポレート・ガバナンスは崩壊しており、証券市場での不公正取引にとどまらず、様々な違法行為を誘発する。
箱企業を通じて調達した資金のマネーロンダリングや、資金が流出した先の企業や仲介手数料等を得たアレンジャーによる脱税がその典型であると認識している。
このように箱企業を利用した不公正ファイナンスの問題は、多くの証券不公正取引、さらには他の分野の違法行為と関連する複合的な、また資本市場の根幹に関わる問題であると認識し、監視委としては、現在最優先課題と位置づけ取り組んでいるところであるが、その取組みについて、次回ご紹介したい。