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券闘士(ギャンブラー)3
(前回のあらすじ)
2009年 有馬記念当日、私は旧知のプロ馬券師、’山さん’に再会する。彼は、「万馬券を狙う。」との言葉を残して馬券売場に消える。レースは堅く収まるが、山さんの言葉の真相を知るべく、山さん行きつけの店へ向かう。
「この辺だったと思ったけど。」
馬券売場を出て、戎橋筋を通って宗右衛門町へ。千日前を抜ければもっと速いんだろうけど、私は地図に疎いのだ。
町の風景?も変わってしまって、かれこれもう30分もこの辺りをうろうろしている。
繁華街では、行きかう人々はそこに住まう人々ではない。自分の足で探すしかなかった。
ようやく見つけた店は、路地に突出して純喫茶’山(マウンテン)’の看板?(と言っていいのか、あの外において灯りがつくヤツ。)が出ていた。
「まだあったんや。」
中には、テーブルが三つとカウンター、髪を茶髪に染めた若そうなマスター(らしき人)がひとり、漫画を読んでいる。知らない顔だ。客は一人もいない。
「あのー、山さん来てませんか?」
「はーっ?」
我ながら、間抜けな質問。再度、容姿で説明する。
「あぁ、今日はまだやな。せやけど、大概、土日は来るから、待ってはったらどうですか。」
「じゃー、待たせてもらいます。コーヒーをホットで。」
この寒いのにアイスで頼むやつはいないだろう、と自分に突っ込みを入れる。緊張しているのか、どうも会話がぎこちない。
ややあって、カランカランというドア鈴、山さんだ。
「おー、兄ちゃん来とるな。万(馬)券取ったか?」
私の前に座るや否や問いかける。
「冗談言わないでくださいよ。あの本命サイドのレースで万馬券なんて、取れるわけないじゃないですか!」
「おや?さっき聞いた兄ちゃんの予想やったら、てっきり3連単当ててる思てたけどな。違うんか?」
3連単!そうだったのか。確かに私の予想は、ドリームジャーニーから、ブエナビスタ、フォゲッタブル、エアシェイディへ。ドリームジャーニーが頭なら6点で取れる計算になる。
私はぎゅっと手を握り締め、唇を噛んだ。
「でもそんな馬券、的中する確率が低い。あの予想は2着までを考えたもので、3着までなら他の馬にも可能性があります。手が広くなって、とても絞りきれない。3着に人気馬がきたらとりがみだ。」
山さんは何も答えず、財布から抜き取った馬券をテーブルの上に投げた。9(ドリームジャーニー)-2(ブエナビスタ)-6(エアシェイディ)、9-2-16(フォゲッタブル)各5000円の3連単馬券。確か190倍位のオッズだったから、ざっと95万の価値がある。
なぜ、こんな馬券が買える?なぜ、こんな馬券で勝負できるんだ?
「兄ちゃんがゆうた通り、このレース堅い。それ位はこの世界のもんやったら誰でも分かる。せやけどそれだけでは、ここまで絞れん。これで勝負はでけへん。」
「じゃー、どうして?」
「色気や。’このレース、ひょっとしたら勝てるんちゃうか’、ゆう色気をどのオーナーもジョッキーももっとったんや。」
「16頭も出走してきたのもその証拠や。誰でも勝てるかもしれん思たら、まして陣営の指示があればなおさら堅く乗るわな。力が違うのに荒れる要素があるとすれば、乱ペースや。エリザベス(女王杯。クィーンスプマンテが大逃げを打って大波乱となった。)が荒れたのがええ例やが、勝てると思てたら結果は違てたやろな。」
「それがないと?」
山さんは、にやっと頷く。
「更に、ブエナの乗り替わりに先行策、前に行く馬は全部こけると読むのはスジや。あとは、この読みを信じきれるかどうか、シロウトとプロの差はここやな。」
「深く考えよらんだけにとんでもない馬券も買えるが、大勝負もできん。負けてもよしと安パイを抱えよる。」
格の違いを見せつけられた思いがした。とても追いつけない。追いつくどころか、影も踏めそうもない。私は力なく立ち上がり、店をあとにするしかなかった。
「山さん、すごいっスね。そこまで読めるんスか。」
話を盗み聞きしていたマスターが話かける。
「なんや聞いてたんか。あの話は嘘や。そんなとこまで読める訳、あらへん。」
と手を振りながら、ポケットから出した馬券をテーブルへ。9(ドリームジャーニー)-2(ブエナビスタ)の馬連、ドリームジャーニー、ブエナビスタを軸にした、8点買いの3連複と、16点買いの3連単。
「えーっ!」
「勝負はこっちや。さっきの3連単馬券は、兄ちゃんの読みが鋭くてたまたま当っただけや。美味しい思いさせてもろたけどな。」
マスターは、しげしげと馬券を見つめながら、
「でも、さっきの買い目、ちゃんとこの16点の中にあるっスよね。なんでわざわざ別けて買うんスか?それに全部当ってるのに、なんで見せないんスか?」
「こんな奴にはとても勝てんと思わそ思うてな。当たらんかったら見せへん。それに、これ(2点買いの3連単)は、あいつの買い目やよってに、精神的ダメージも大きいで。敵はひとりでも少ないほうがええ。」
「ひぇー!怖い怖い。山さんには深入りせんとこ。」
「そういうこっちゃ。トウシロウは、かわいいあそんどったらええんや。」
※この物語は、フィクションです。登場人物は、実在の人物とは一切、関係ありません。
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ようやく続き読みにこれたぁ~
>この寒いのにアイスで頼むやつはいないだろう、と自分に突っ込みを入れる。
ん??私はコーヒーはいつも「アイス」です(^^ゞ
なかなか面白い日記は意見させてもらいましたよ!
(内容がぎっしり詰まってますねぇ^^)