ユリウスさんのブログ

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盤外のトラブル(裏情報)

 US碁コングレスは時間がたっぷりあるので、心ゆくまで碁が楽しめるのですが、色々な文化を持った人種が集まっているので、たまにトラブルにも逢います。

 これは翔年の遭遇した盤外トラブルです。できるだけ事実をありのままに伝えて、みなさんのご判断を仰ぎたいと思います。(これは裏のコングレスです)

 大会最終日、相手は中国人(中国系アメリカ人?)女性のMs.Wan Chen でした。一手一手に時間をかけるタイプ。ランチタイムの12時には、翔年の残り時間は1時間以上あるのに、彼女はもう15分ぐらいしかありませんでした。
 黒番の彼女が地でリードしているのですが、碁形の厚い翔年が追い込みの効きそうな形勢でした。

 12時半になった時に、翔年はランチタイムによる中断を提案しました。彼女も同意したので、封じ手をするためにTD(トーナメントディレクター)を呼びました。(封じ手とは食事等のために、試合を中断するとき、考慮時間が不公平にならないよう、TD立会いのもとに、どちらかが着手を決めてから、両者の時計を止めて、相手に分からないように紙に「着手点」を書いておくことです)
 
 「今日は最終日だ。昼からはこの大部屋はさよならパーティのために片付けなければならない。試合は続行せよ」これにはびっくり。

 二人とも食事ができなくなると文句をいいましたが、TDは続行を主張します。こんな無茶な説明をするTDは初めてでした。翔年の脳裏にチラッと、その日の朝、会場片付けの手順の説明があったことを思い出しましたが、まさか食事が抜きになるとは思いもしませんでした。彼女は長々と文句を止めません。

 翔年はランチ抜きで打つ決心をしました。TDの裁定は絶対です。覆ることはありません。それにこのやり取りは翔年の持ち時間を費やしてしていますから、彼女の方は交渉が長引いても何の損もありませんが、翔年はうれしくありません。(できのいいTDなら両者の時計を止めるところです)

 「我々はつづけるしかない」と言って着手をし、時計のボタンを押しました。こうすれば彼女の持ち時間が減るので、彼女の文句はやみました。試合続行です。ところが、翔年の考慮時間になると、「お前の時間が1時間もある(残っている)から、我々は食事もできなくなってしまった」と逆に翔年に文句(泣き言)を言うのです。これはフェアではありません。筋違いもいいところ。
 こっちに何の落ち度もないのは明らかなので、相手にせず、冷静に着手を続けました。彼女の番になると静かになるのですが、こっちが考えているとまた文句をまくし立てます。

「文句があるなら俺にではなくTDを呼んで言え!」厳しくいいはなつと、彼女はまたTDを呼びましたが、らちがあくはずはありません。続行。
 また前と同じように、翔年の手番になると彼女の文句ともボヤキとも分からん英語の騒音が頭の上から降ってきます。

”Be quet. I'm thinking." やっと黙らすことができました。
 そのころ彼女の持ち時間はいよいよ切迫して、残り2分ぐらいしかありません。彼女はTDに文句を言うため椅子から立ち上がったままで、必死に打っていたのです。

 こんな状況下でも翔年は冷静でした。その時は、女性に弱い中年のおっさんではありませんでしたし、また、外人に極端に弱い日本人でもありませんでした。ましてや、外国の理不尽な要求に弱腰でペコペコする日本政府のようでもありませんでした。



 碁形が厚いので、翔年は先手のヨセを打って、余得を確保しながら、最大の辺のすべりに手を廻したとき、勝てると思いました。彼女が落胆するのも分かりました。

 通常は先手になる隅のハネツギを打ってきた時、翔年は手を抜いて中央のかねて狙いの手を打ちました。彼女は隅を切り取り、翔年は中央の一子抜きと一種の振り代わりになりました。その後中央のコウを彼女が譲歩したとき、チャンスを掴みました。2線からの出切りを敢行し、相手が中央に一手手を戻す間に、隅に手が生じました。 全ての変化が読めていたわけではありませんが、13手の攻防で隅の特殊な関係から、白の一手勝ちとなりました。
 彼女はそれに気がついたとき、持っていた黒石を机の上に投げました。大きな音とともに石が跳ねました。(日本ではこれは子どもがやっても厳しくたしなめられます)


 こちらでは投了の意思表示はハッキリ "I'll resign"といいます。そして双方から握手の手を出します。(日本では静かにアアゲハマを盤上に置く人が多い)彼女は投了の意思表示をしなかった。それで翔年は彼女が石を崩し始めるまで、辛抱強くじっと待ちました。無用の言いがかり、トラブルを避けるためです。握手もなく味気ない終わり方でした。

 
 勝ったからいいようなものの、もし反対に、彼女のせいで感情が乱れ、考えがまとまらなくなって、勝てる碁を負けたとしたらどうだろうか?
 きっと、翔年はしばらく碁が嫌いになったかも知れません。


 さよならパーティの時、近くのテーブルにいた彼女に話しかけたところ、けろっとした顔で応じました。
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