タマニチェンコさんのブログ

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属人性の功罪


「属人性を廃せよ」
職場の上司は、そう声高にのたまってはばからない。


僕は、この「属人性を廃する」って考え方が嫌いで嫌いで嫌いと言い尽くしても言い足りないぐらいで、これが、イマドキのブログならば「属人性が必要な10の理由」なんてタイトルでポストしたいぐらい嫌いなのです。
ただ、理由が10個も思いつくか不安だったので、とりあえずタイトルは「属人性の功罪」ってことにしました。


端からお話しして行くと、まず、この世にある人の営みと言うものは、それが何であれ属人性の塊だと言うことが一点です。
ファーストフード店でマニュアルどおりに笑顔を振りまくことも、コンビニでレジを打つことも、広い意味で言えば「属人性」の範疇です。これは、コンビニやファーストフード店でバイトしたことが有る人なら、思い当たることと思います。
上司の言う「属人性」意味が、このような広範囲での「属人性」であるのであれば、これは早々にも「不可能」と言う結論が出るでしょう。


でもまー、そんな屁理屈を言っていてもしょうがないので、現実的な線で落とし所を探すとしましょう。


では、なぜ上司は「属人性」を廃したがるのか?
それは、「部下を失うリスクを出来うる限り分散したいから」とか「急激な人員増強に耐えうる組織にしたいから」なんて理由かもしれません。ひょっとしたら「業務をマニュアル化してコストの安い人員で回せば今より利益が上がる」なんて理由かもしれませんね。
いずれにせよ、それらの願いは叶うのでしょうか。


僕の主張だけを書くのであれば、正直難しいと思います。



理由1
「属人性を廃する」ことこそ高度な属人性を持った仕事だから
理由2
完全なマニュアルを作ることが難しい。
理由3
作られた情報は生れ落ちた瞬間から腐り始める。
理由4
コストが見合わない。
理由5
スピードが遅い。


うーん。5つぐらいか。
まず、「属人性を廃する」ためにはどうすれば良いか。現在やっている業務に関するマニュアルを作成することとか、これからやる業務に関してもマニュアルを作成する。事だったりすると思いますが、これには高度な能力が必要になります。
つまり、今まで経験や勘に頼ってきた仕事を紙や電子媒体に落としこまなければならず、これは「その業務をこなすことが出来る」以上に難しいことだと思います。
または、「業務の遂行」と「業務の定型化」では必要となるスキルが違ってくるという事も言えると思います。

いずれにせよ、マニュアル作成や作ったマニュアルを利用しての研修と言った能力が必要になってきて、「属人性を廃する」ためにより一層の「属人性」が必要になるという困った事態に陥りそうです(じゃあ、その属人性を廃するために・・・以下無限ループ)。


そして、形を持ったマニュアルは維持が必要になります。これもバージョン管理や貸し出し管理、実務とのズレ(時代遅れ)を認識するセンサーなど、頭の痛い問題が発生します。
これらの問題を解決するためには、大量の人員と時間を投入する必要があると思います。きっと、個々人に淡々と業務をこなさせた場合の10倍は必要になりそうです。そうなってくると、「コストカット」と言う望みは早くも断たれなければならなくなりそうです。
それでも頑張って続けた場合でも、大量に蓄積された文章には、大変な魔力が在ります。それは「膠着力」と言うような性質のもので、「新しい事を始めるための面倒くささ」が水面下から無意識に働きかけ、部下たちのやる気を徐々に削いで行くのです。誰だって、ちょっとしたアイディアを試すために書類を何十枚も書かなければならないのであれば、「今のままでいいや」という気分になると思いませんか?


さて、ここまで「属人性を廃する」事に付いての批判的な意見を書いてきましたが、「100%悪だ」というふうに言うつもりはありません。人類の発展とはひとえに「属人性を廃する」歴史だったと言っても過言ではなく、過去の偉人たちの人10倍の努力の結晶が現在の便利を生み出しているのだと思います。


それでも「属人性を廃する」事がファーストプライオリティなのか?という事が言いたいのです。


野球チームやサッカーチームを作るのに、「属人性を廃する」なんて事を言い出す人はいないと思います。


では、スポーツチームと普通の会社では何が違うのでしょうか?


僕には、両者を隔てる決定的な違いがわかりません。
「Aさんの仕事はAさんにしか出来ない。だからマニュアル化して、他の人にも出来るようにしよう」ということは「誰でも松井秀喜の代わりが出来るようにしよう」と言っているようなものではないかと思います。
これを合理的に考えるのであれば、「Aさんの仕事はAさんにしか出来ない。だからAさんが辞めてしまわないようにしよう」と発想した方がはるかに効率的なのではないか。と思うのです。


昔読んだジャック・ウェルチの自伝には「スターチーム」という単語が出てきます。ジャックは、企業の中でもNYヤンキースやレアル・マドリーのような「スターチーム」を作ろうとしていたのです(本人はレッド・ソックスファンのようですが・・・)。あのGEのような大企業でそれをやろうとした(というよりジャックのGEは常に「スターチーム」だった)のですから凄いの一言です。


大企業であろうが、零細企業であろうが、企業というものは結局は人の集まりでしか有りません。少しでも優秀な人材を一人でも多く集めた企業が優秀な企業という事は絶対的な事実を含んでいるのだと思います。
もちろん、マニュアル化や個人のスキルに頼らないシステムの構築も重要であることには変わりないのですが、盲目的近視眼的にそれに邁進するのはどうかと思うのです。
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