麦にゃんさんのブログ

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米国債

 世界的な市場波乱が続いている。米金融機関を標的とした米政府の新金融規制案に加え、材料として深刻さを増してきたのが欧州政府の信用懸念だ。「PIGS」と呼ばれるポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインの財政状態に不安の声が上がっている。米株式市場にも、投資家心理の萎縮が鮮明に表れてきた。安全資産への逃避である。
 ダウ工業株30種平均は5日、最終的には何とか前日比でプラスを維持したが、日中は200ドル近い下げ幅に達することもあった。年初からは400ドル以上、つまり約4%近くもの下落だ。これに対して景気の変動に業績が左右されない「ディフェンシブ株」の代表格である薬品大手メルクの株価は逆に0.5%の上昇と値持ちがいい。
 もちろん、安全資産の伝統的な代表格は米国債だ。ダウ平均と米国債10年物の利回りのチャートを重ねると興味深い。株式相場が荒れ始めた1月中旬以降、ほぼ連動して動いているのだ。株価が下がれば米国債の利回りも下がる(価格は上昇)、投資マネーが株から米国債にシフトしたことを示している。
 だが、米国債は本当に安全資産なのか。今持ち上がっている懸念は欧州の財政危機だけではない。リーマン・ショック以降の危機対策で世界中の政府が財政出動を進めたツケともいえる、世界規模の財政問題である。
 国際通貨基金(IMF)は昨年11月、主要G20(20カ国、地域)の政府の債務が危機前の2007年には国内総生産(GDP)の78%だったのに対し、14年には118%にまで膨らむと予測した。もちろん危機の震源地となった米国の伸びも大きく、61%から108%へと債務が膨らむ。
 ならばその影響は、ということになる。1月にスイスのダボスで開いた世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)。同フォーラムは総会に合わせて恒例の報告書を公表した。「グローバル・リスク2010」と呼ぶもので、世界が抱える経済、政治、社会などあらゆるリスクの要素を抽出し、それぞれが複雑に連鎖していく状況を網の目のような形で表現する「リスク関係マップ」が目玉だ。
 今年のマップの中心に置かれたのが「財政危機」だった。そして、そこから太い線で結ばれた別の要素が「ドルの急落」。債務の急増がドルの信認を落とすリスクシナリオを提示したのだ。
 直近は安全資産としての米国債が買われ、ドルも対ユーロで上昇、IMFやダボス会議の警告を市場は無視しているかのようだ。だが、異なる判断をする投資家もいる。それも大物だ。
「最近、米国債を売って、ドイツ国債に乗り換えたんですよ。米国と比べてドイツの方が財政的に安全なので、米国債より信用力があるといえるでしょう。米国債は300億ドルぐらい売って、お金はドイツに向かいました」。こう明かしてくれたのは、世界最大の債券運用会社である米ピムコの最高投資責任者、ビル・グロス氏だ。運用総額1兆ドル。市場では「ボンド・キング(債券王)」と呼ばれている。先のIMFの予測では、ドイツの政府債務は07年でGDPの63%、14年でも89%にしか膨らまず、米国に比べると確かに財政は保守的だ。
 米国債も決して安全ではない――グロス氏の行動は、市場にも常識を疑ってかかる投資家がいることを示している。この見方が広がれば、米国債に向かったマネーは逆流し、市場は荒れるだろう。米長期金利が上昇して景気に逆風になることも考えられる。週末、カナダでは7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる。会議ではPIGSだけでなく、米国の財政状況にどこまで焦点が当たるのだろうか。
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