資源・新興国通貨の2025年9月までの展望

著者:八代和也
投稿:2025/04/28 13:55

豪ドル

RBA(豪中銀)は2月17日-18日の政策会合で0.25%の利下げを実施し、3月31日-4月1日の会合では政策金利を据え置きました。

4月1日の会合以降、米国と中国は関税の報復合戦を展開。豪州は中国を最大の輸出先とするため、関税によって中国の景気が悪化すれば豪景気も下押しする可能性があります。市場ではRBAの追加利下げ観測が強まっており、市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によれば、RBAは25年12月末までに合計1.25%の追加利下げを行うとの見方が優勢です(4/25時点)。

米中貿易摩擦が今後緩和すれば、RBAの追加利下げ観測は後退すると考えられます。追加利下げ観測が後退する場合、豪ドルのプラス材料になりそうです。

豪ドルは、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすい傾向があります。世界的な貿易戦争への懸念が市場で後退するなどしてリスクオンが強まる場合、豪ドルのプラス材料になりそうです。

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【豪ドル/NZドル】
豪ドル/NZドルは4月23日に一時1.06514NZドルへと下落し、24年3月以来の安値をつけました。4月に入ってからの豪ドル/NZドル下落の主な要因として、RBAの追加利下げ観測が市場で強まったことが挙げられます。

今後、米中貿易摩擦が緩和してRBAの追加利下げ観測が後退すれば、豪ドル/NZドルは上昇傾向になる可能性があります。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は24年8月から25年4月の政策会合まで5回連続で利下げを実施しました。
 
前回4月9日会合時の声明や議事要旨では、「最近発表された米国による関税の引き上げ、複数の貿易相手国による報復措置、そして地政学的な不確実性の高まりは、世界経済の成長に大きなマイナスの影響を与えるだろう」、「国内の経済活動にも悪影響を及ぼす」と指摘。「関税政策の範囲と効果が明確になるにつれ、必要に応じて政策金利をさらに引き下げる余地がある」との認識が示され、追加利下げが示唆されました。
 
市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、市場では25年12月末までに合計0.75%の追加利下げが行われるとの見方が優勢です(4/25時点)。GDP(国内総生産)や雇用統計などNZの経済指標の発表によってRBNZの追加利下げ観測が強まる場合、NZドルのマイナス材料になりそうです。

一方で米FRBも今後追加利下げを行うと考えられます。FRBの追加利下げペース次第では、NZドル/米ドルはそれほど下落しない可能性があります。NZドル/円については、日銀が今後追加利上げを実施すれば、軟調に推移するかもしれません。

NZドルは豪ドルと同様、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすい傾向があります。世界的な貿易戦争への懸念が市場で後退するなどしてリスクオンが強まる場合、NZドルのプラス材料になりそうです。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は4月16日の政策会合で政策金利を2.75%に据え置くことを決定。BOCは24年6月から25年3月まで7会合連続で利下げを実施していました。

BOCは政策金利を据え置く理由を「米国の関税の道筋とその影響についてより多くの情報を得るため」と説明。マックレム総裁は会合後の会見で「景気減速によるインフレの下押し圧力と、コスト上昇によるインフレの押し上げ圧力(のタイミングと強さ)を引き続き精査する」と述べ、「入手される情報によって明確な方向性が示されれば、断固として行動する用意がある」と表明しました。

市場ではBOCは25年12月末までに合計0.50%の追加利下げを行うとの見方が優勢です。このことはカナダドルのマイナス材料と考えられます。一方でFRBの追加利下げ観測も市場にはあります。金融政策面から見れば、米ドル/カナダドルは明確な方向感が出にくいかもしれません。

トランプ政権の対カナダ関税とカナダ政府の対応には注意が必要です。両国の貿易摩擦が激化する場合、カナダドル安圧力が生じる可能性があります。

4月28日にカナダの総選挙が実施されます。本稿執筆時点で選挙の結果は判明していないものの、事前の世論調査では与党・自由党が最大野党・保守党をリードしています。選挙後、カナダ政府とトランプ政権の関税交渉がどうなるのか注目です。

トルコリラ

トルコリラは3月19日に急落し、対米ドルや対円で過去最安値をつけました。トルコの検察当局がイマモール・イスタンブール市長を拘束したためです。イマモール氏はエルドアン大統領の最大のライバルで、28年に予定されるトルコの次期大統領選の野党の有力候補とみられていました。

TCMB(トルコ中銀)はトルコリラを下支えするため金融引き締めを実施。3月20日に緊急会合を開き、翌日物貸出金利を44.00%から46.00%へと引き上げました。また、4月17日の定例会合では利上げすることを決定しました。主要政策金利の1週間物レポ金利を42.50%から46.00%へ、上限の翌日物貸出金利を46.00%から49.00%へ、下限の翌日物借入金利を41.00%から44.50%へとそれぞれ引き上げました。

TCMBの一連の措置により、足もとのトルコリラは比較的落ち着いた値動きになっています。ただし、トルコの政治情勢には引き続き注意が必要です。同国の政治リスクが一段と高まる場合、トルコリラに対してさらなる下押し圧力が加わる可能性があります。

南アフリカランド

南アフリカランドについてはトランプ政権の通商政策に注目です。

トランプ政権による相互関税では、南アフリカの関税率は30%とされました(基本税率10%+上乗せ分20%)。相互関税の上乗せ分については7月上旬まで停止されたものの、仮に上乗せ分が発動されれば、南アフリカ景気は打撃を受けるとみられます。また、米中貿易摩擦が激化することは南アフリカ景気にとってマイナスになると考えられます。南アフリカの輸出先は第1位が中国、第2位が米国だからです(両国を合わせて2割弱)。

トランプ政権の通商政策次第では、南アフリカランドは軟調に推移する可能性があります。

メキシコペソ

メキシコ経済は対米依存度が高く、輸出の約8割が米国向けです。そのため、トランプ政権の通商政策にメキシコペソはより影響を受けやすいと考えられます。

トランプ政権は3月4日、メキシコからの輸入品すべてに25%の追加関税を発動しました(その後、USMCA準拠品については追加関税の適用対象外に)。さらに同月12日には鉄鋼・アルミ関税を、4月3日には自動車関税(※)を発動しました(ただし、鉄鋼・アルミと自動車関税は全ての貿易相手国が対象)。相互関税については、メキシコは対象外です。

(※)USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に準拠した自動車については、米国製部品の使用割合に応じて関税が課される例外規定が設けられています。

トランプ政権が今後、メキシコを対象に含めた高率の関税を追加で発動すれば、メキシコ景気の先行きへの懸念が強まるとともに、メキシコペソには下落圧力が加わる可能性があります。

BOM(メキシコ中銀)の金融政策にも注目です。BOMは3月27日の政策会合で0.50%の利下げを行うことを決定。この時の声明では、「今後も金融政策スタンスの調整を継続し、同程度の規模での調整を検討する可能性がある」とされました。BOMが利下げを継続する場合、メキシコペソのマイナス材料になると考えられます。

ただ、仮にBOMが利下げを継続したとしても、日銀など主要国の中銀と比べてBOMの政策金利の水準がかなり高い状況に大きな変化はなさそうです。金融政策面からの下落圧力はそれほど強くならないかもしれません。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想