バラの会さんのブログ

最新一覧へ

« 前へ106件目 / 全667件次へ »
ブログ

日経平均裁定取引を一気に解説する

 
 

プロだって実はよくわかっていない 

 新聞を見ても、他局のテレビを見ても、何を見ても、裁定取引についてはきちんと説明したものがありません。そりゃそうです、実際にこの取引に携わったことのある人は世界中でほんの僅かしかいない。日経平均で現在この取引を継続しているのは、日本では野村、大和(多分、みずほや三菱はやっていないし、SMBC日興には出来る人がいない)、海外ではGS,MS,CS、ドイツ、バークレイ、アムロ、パリバ、ソシエテ、UBSぐらいでしょうか。つまり仕組みを教えてくれる人がいない。かくいう私はまだこの取引が始まったころのメンバーの一人でした。

 

簡単に言えば以下の通りです。

 

 

 別に先物+現物というだけではないのです。むしろ相場を動かし大きく儲けたければオプション+現物を使います。価格が乖離する(本来同じ値段のはずの上記5つのものが買われすぎたり売られすぎたりする)なら何を使ってもいいのです。ただ問題は、先物でもオプションでもETFでもくりっく株365でも、そうしたものは不特定多数の、それこそ何百万人もの投機家が売ったり買ったり毎日暴れているのに対して、裁定取引を行うのは先述したとおり、世界中に10社ぐらいしかいない。ちなみにオプションの合成先物というのはコール買い+プット売り=先物買い、あるいはコール売り+プット買い=先物売り、といいう仕組みです(今日は説明している余裕がないので、これについてはまたいつか)。

 

というわけで、裁定業者の丸儲けになることはしょっちゅうです。

 

裁定取引の必要性 

 諸悪の根源のように言われますが、大概の参加者は何も考えず無茶なことばかりしていますから(225銘柄がそれぞれ今いくらしているなんか誰も考えていませんから)先物と現物の価格差は広がるばかりで、これがなければどんどん乖離してゆきます。オプションもETFも何もかも。

 

 乖離を縮めるためには、絶対的に必要な取引なのです。あるいは別にこれで儲けようとしなくても、海外にお客さんを持っていたり、仕組債とか日経平均株価を使った金融商品を組成したりしている証券会社にとっては、必要不可欠な取引がこの裁定取引なのです。

 

 

 例えば、A証券が海外のお客さんからトヨタやキャノンを買いたいと、NY時間に言われたらどうすればいいでしょう。わかりました、明日の朝東京時間9時まで待っていてください、などといった甘い話は許されません。ああそうかい、それならB証券にあたってみるよと、取引をキャンセルされるのが関の山です。お客は今、欲しいのだから。

 

 となると大手証券会社は在庫を持たなければならない。しかし在庫を持てば何かあった時に値下がりして損をするかもしれない。それじゃあ困るからと考えだされたのが、先物を使ったヘッジ取引で、トヨタやキャノンやソニーやソフトバンクや、色々在庫を抱えて先物を売っておくことになる。そうすれば、東証が終わった後、在庫を持っていても値下がりは先物で食い止めることが出来る。仮に、首尾よく、欧州でトヨタの株が売れた、NYでソフトバンクの株が売れた、となればその分海外の先物を買い戻しておけばよい。あるいは逆に海外で、投資家から日産を売りたい、とか武田を売りたい、ということになれば、これを引き取ってあげてその分シカゴやシンガポールの日経平均先物を売っておく。

 

 こうして現物買い・先物売りという取引が積み上がっていき、それがきれいな形になるように東京時間で現物225銘柄と先物、あるいはオプションという形に整理される。

 

これが裁定取引の基本形です。

 

225銘柄を全部買ってみればわかる

 もう一つ難しいのは日経平均株価の計算方法が簡単なようで(単純平均)、それでいて煩雑なこと。詳しくは日経プロファイルを見てもらいたいのですが、みなし額面やら除数やら面倒くさいことばかり書いてある。

 

http://indexes.nikkei.co.jp/nkave

 

 TOPIXなら時価総額ベースでトヨタから順番に買って、大体6~70銘柄ぐらいでほぼ連動するのだけれど、何せ一番ウェイトが大きいのがユニクロですから日経平均は結構歪んでいます。

 

 

 答えだけ先に書くと、日経平均株価を自分で作ろうと思った最低342百万ぐらいはかかります(何も知らない人が数百億かかるから大手証券会社しか無理というけどそれは嘘)。表の右端にあるとおり、ユニクロ1000株、ソフトバンク3000株と根気強く順番に買い注文を出していけば日経平均株価の出来上がりです。勿論、裁定業者はプログラム取引という手法を使っていて、瞬間的に225銘柄を一気に売ったり買ったりします。

 

昔はFAXでこれを(225銘柄)注文する人もいたんですよ。

 

先物は25枚の売り買い

 以上、現物の売買に対して見合う先物の枚数は25枚。これは除数というものが相当するので正確には24.975枚になるのだけれど、本当に正確に取引しようとすれば、金額はどんどん大きくなってしまう。どうせ誤差が生まれるものですから25枚で十分。これに対して現物は20万株。何故なら単純計算で1000株ずつ225銘柄買えば225千株なのだけど、先述したみなし額面というものがあって1株単位や300株単位など例外だらけなのがこの日経平均株価なのです。それで単純に合計200万株=25枚と覚えておいた方が話が早い。

 

 

 で、先物に買いが25枚入れば裁定業者がその都度、25枚の売りを当てながら1000株ずつ225銘柄、トータルで20万株の買いを入れてバランスを取っている。これが積もり積もれば何億株もの裁定取引が積み上がる。

 

 ここでみんなが真っ青になるわけです。こんなに裁定取引買い残が積み上がっている、これを売られたらえらいことになる、どうしよう、というわけです。

 

裁定取引は公開されている

 この話はもう25年くらい前から繰り返されており、相場が急変するのを恐れて東証も残高を毎日公表しています。でもみんないまだに仕組みがわからないから疑心暗鬼になるばかりです。

 

 残高は毎日日経平均新聞に公表されていますから、時々チェックしておけばよいでしょう。20億株(=先物25万枚)くらいは常に裁定取引は証券会社の在庫や組成された金融商品のために維持されています)でも5月の22日にはこれが29億まで増えました。先物に換算すれば112,500枚、当時の金額で1兆7000億円、よくまあこれだけ世界中が日経平均先物を買ったものです。

 

今回の9月限は今のところ前回6月限の半分程度となっています。

 

 

先物主導の相場との付き合い方 

 例えば一日の変動率(%)が、TOPIX>日経平均となっていれば、この日は先物主導ではありません。REITの動きをチェックするのも一つのやり方です(REITは日経平均には入っていません)。

 

 それと出来高ですね。売買代金が2兆円を下回ると、どうも先物主導になりやすい。先物は毎日売り買いする人が大勢いますから、これに見合う裁定取引だけで2兆円ぐらいが出来てしまうようです。

 

 以上が簡単な仕組みですが、まだまだ話は続きます。一番の問題は、そんなにたくさん買ってしまった先物を誰がどう処分するのか、というところです。何故なら先物には限月というものが存在し、現在の9月限で言えば9月の8日には取引が終わってしまうから。みんながこれをほったらかしにしたまま取引が終わってしまえば、裁定買い残は全て解消され、9月9日金曜日の朝には成り行きで4億株ぐらいの売り物が出てくることになってしまいます(そんなことは滅多にありませんが)。

 

長くなるので、続きはまた来週にしましょう。今回はここまで。

 

 

 

 

 

『日経平均裁定取引を一気に解説する』

  ここまでのおさらい 

 

  短時間で、それこそ全力疾走で駆け抜けるように説明していますから、何度か繰り返し見てもらえるのがいいかと思います。“難しい”と言われるのは重々承知の上で番組を作ったつもりなのですが、やはり後戻りできないTVでは限界があり、こうしてレポートでおさらいしながらのレッスンです。

  さて、これまでのおさらいです。そもそも裁定取引とは本来同じ値段であるはずのものが、ある一時点を取るとそれが高かったり安かったりするので、その中から安いものを買い高いものを売るってそれらの間の値幅(これを利ザヤと呼びます)を取るのが裁定取引です。

  今回、取り上げている日経平均株価の場合、一般的には以下の5種類が実際に取引されていますが、このうち赤字で書いたものと日経平均現物株の値段は、少なくとも来月913日金曜日の寄り付き(これがSQ=Special Quotationです)においては、同じ一つの値段になる仕組みになっています。

 

 

 前回もお話しした通り、裁定取引にはいくつか目的があるのですが、その中で最も重要なものは、先物市場の需給調節を行うことにあります。先物だけが勝手に取引され、いつまでたっても現物に収斂せずにどこまでも乖離することになれば、そんな市場はやがて誰からも相手にされなくなってしまいます(実際、そのような乖離があまりにひどすぎて商品先物などの中には誰からも見向きされなくなったものが多々存在します)。

 

 

もう一度、日経平均を作ってみよう 

 では今度は先物の反対側にある現物株の確認です。日経平均は225銘柄もあり、その平均値が日経平均株価なのですが、過去との連続性を保つために、必ずしも売買最低単位での平均値になっておらず、これは一つ一つ丁寧に調べてみなければなりませんが、理解する上では、大体、金額で3.4億円、株数で20万株ぐらいが一単位です。

 

 

 ただこの数字と先物の間位には“除数”と呼ばれる面倒くさい数字でコンバートされる仕組みになっており、関係としては以下のように覚えておけばよいでしょう。

 

日経平均株価1単位=225銘柄合計20万株=先物25枚

 

 

SQとは何なのか 

 

 残すところ9月限もあと1か月を切りました。もうじき先物もオプションも2013年9月限はその寿命を終え、最終清算を迎えます。この最終清算値がSQであり、これは9月13日金曜日の日経平均225銘柄の寄り付きの値段が集計されて決定されます。

 

 ですので、この日までに反対売買をせずに日経平均先物や日経平均オプションを持ったままにしていると、全て自動的かつ強制的に9月13日の日経平均寄り付きの値段で生産されてしまうことになります。

 

 実は、この仕組みに先物と裁定取引の波乱要因が隠されています。先ほど述べたように、先物市場の需給過不足を埋め合わせるのが裁定取引ですから、先物市場の参加者が9月限で先物取引からは足を洗うと取引をやめてしまい、12月限へと移行(これをロールオーバーと呼びます)しなければ、一挙に需給が崩壊し、裁定取引は全て9月13日の寄り付きで成り行きの売り注文を出す形で、裁定取引は解消されることになります。

 

 この仕組みを知っているからこそ、最終売買が近づき、その一方で裁定買い残が膨れ上がったままになっていると、市場参加者は需給不安に怯え、売り物が膨らんでいくことになるのです。

 

 

 こうした需給崩壊を避けるには、先物取引が速やかに12月限に移行する必要があります。移行すれば、それに合わせて裁定取引も現物にかけていたヘッジ売りのポジションを9月限から12月限に行きますので、需給崩壊は起こりません。しかし放っておくと大変なことになります。

 

 

 ただ、裁定取引というのは証券会社の現物在庫維持のために、20億株ぐらいは常に残されており(1銘柄当たりおよそ1万株程度=先物換算で25万枚ほど)全部が一斉に解消されるようなケースは私も今まで見たことがありません。

 

オプションは身体で覚えろ 

 次はオプションを使った裁定取引につぃいてですが、どうも一般の人々はオプションの勉強を間違えているようです。いきなりデルタだのガンマだのベガだのセータだの、ギリシャ語の勉強じゃあるまいし、そんな言葉の定義を覚えることはナンセンスです。またこれらの理論的支柱となっているブラック・ショールズの公式を学んでも、実際の売買で役に立つことは何もありません。

 

 現実の値段を観察することが第一です。例えば8月13日の日経平均オプション9月限の終値は次のように表示されています。

 

 

 例えば14000円のコールを買いに行けば1枚当たり370円(370円×1000=370,000円)となりますが、売りに行けば365円。また14000円のプットを買いに行けば520円売りに行けば510円です。

 

 ここでもう一度コールオプション(買う権利)とプットオプション(売る権利)の損益曲線を現実の値段に合わせて見てみましょう。全部のストライク・プライスでこれを描くと見づらいので、主だったもの、13500円、14000円、14500円の3つで、コールの買い、コールの売り、プットの買い、プットの売りを見てみます。

 

 

合成先物とは何か 

 では、合成先物とは何か。これは簡単に言えば、オプションで作る先物のことです。先ほどのオプションを例にとれば、以下のような形です。

 

 

 これだけだと狐につままれたような気になっていらっしゃるかもしれませんので、具体的に合成先物がどのような形状となるかを見てみましょう。まずは135コールの買いと135プットの売りで構成される合成先物の買い。

 

 

 コールの買いで支払ったプレミアムが、プットの売りによって受け取りに代わり、これが相殺されて先物と同じような買いの形となります。ここで赤い丸の位置に注目しておいてください。

 

では次に140のコール買い・プット売り。

 

 

ここでも赤い丸の位置に注目しておいてください。では145のコール買いとプット売り。

 

 

今度は合成先物の売りを見てみましょう。これはコール売りとプット買いの組み合わせから作られます。まずは13500円ストライク。

 

 

次いで140のコール売り・プット買い。

 

そして最後に145のコール売り・プット買いです。

 

作られる合成先物の値段は微妙に異なる 

 問題は赤い丸の位置です。実はこの緑色の合成先物がY軸0のラインと交わるところのX軸の値段が、それぞれの合成先物のコスト(値段)となります。具体的な計算手順は以下のようになります。

 

 

 この手順で計算される8月13日終値ベースの日経平均9月限オプションで作った合成先物の値段は以下のようになります。

 

 

 合成先物の値段はオプションのストライク・プライスごとに微妙に異なります。ただ大事なことはこの日の終値では最も安い合成先物の買いは13750円ストライクで作られる13850円であり、最も高い合成先物の売りは13875円ストライクで作られるこれもまた13850円でした。この日は先物9月限の終値も13850円ですから、先物とオプションの間には裁定取引の収益チャンスはなかった模様です。

 

 しかしこの日の現物株の終値は13867円ですから、チェックしたものの中では最も高いものです。となると現物は売り、先物、及び合成先物は買い、という組み合わせで17円(13867円-13850円=17円)という利益が確定されます。つまりこの日の終値では裁定売りの取引、もしくは裁定買い残の解消売りが誘発される環境に合ったと言えます。

 

 オプション市場を観察していると、時々、ある特定のコールだけが強引に買い進まれたり、ある特定のプットだけが強引に買い進まれたりすることがあります。実はこういう時が合成先物を使った裁定取引のチャンスであり、例えばコールが買い進まれれば、コールを高く売るチャンスが生まれますから、コール売り・プット買い+現物買い、という裁定買い取引が誘発されます。またプットが強引に買い進まれれば、プットを高く売るチャンスが生まれますから、コール買い・プット売り+現物売り、という裁定売り取引が誘発されます(下落相場においてプットが買われボラティリティが上昇する一方で、合成先物による裁定売り取引が多発することがしばしば観察されます)。

 

 以上が現場における裁定取引の実態です。もっと複雑な取引、もっと戦略・戦術的な取引も使われていますが、それは純粋な裁定取引とはいえませんので、今回の説明からは割愛しました。また何かの機会で分析してみたいと思います。

<了>

コメントを書く
コメントを投稿するには、ログイン(無料会員登録)が必要です。