元財務省キャリア官僚(脱藩官僚)、高橋洋一著『財務省が隠す650兆円の国民資産』(講談社)、、、書評☆五つ。 増税を受け入れる前に有権者一人一人が読んでおくべき本だと思います。
内容要点は以下のとおり。
・ 日本国の負債は1000兆円だが、日本国の資産は650兆円。 負債も世界一だが、資産も巨大で、負債ー資産=純債務は350兆円。 負債額だけ書き増税を煽るマスコミ、資産額の巨大さを書かないマスコミはおかしい。
・ 資産の多くは特殊法人等への資金提供。 つまり、特殊法人という役所の資産を膨らませることで、負債も膨らんできた構図。 特殊法人は役所の天下り先として多数作られてきた。
・ 国が多額の資産を保有するのはデメリットが大きい。 役所のほうが民間よりも上手く運営出来るならば、何でも国有化し、国有資産を増やす方が望ましいが、実際はその逆である。 しかも、天下りや官民癒着など利権の温床になり、税金の無駄使いを増やしている。
・ 資産のうち、年金関係の120兆円以外は、概ね売却可能なもの。 特殊法人等の民営化で210兆円は即座に捻出可能。
・ 増税(税率アップ)の前に、国有資産の売却をすべきである。その方が負債は膨らみにくくなり、税金は無駄使いされにくくなる。
・ 純債務(350兆円)は、日本国が毎年生み出す富であるGDP(約500兆円)と比べ、それほど大きくない。 GDP比では、世界的、歴史的にも大きくない。
・ 国の毎年の財政赤字(=年間支出ー年間税収)は40兆円程度と大きいが、このうち、約10兆円は『債務償還費』で水増しされたものである。 ホントの赤字は30兆円。 これもマスコミは報道出来ていない。
・ 毎年の財政赤字のうち、特別会計の支出には無駄が多い。 また、余剰金が毎年2兆円ほど生まれ埋蔵金として積み上がる状態である。
・ 財政赤字は支出増大のせいだけでなく、税収減少によっても起きている。 税収減は、デフレ政策で引き起こされている(デフレ政策:日銀が通貨供給を諸外国よりも絞り気味にする政策=円高政策)。 このため、前回の消費税増税以降も税収は減り続けている。
・ デフレ政策を続ける限り、増税(税率アップ)でも税収は増えにくい。 財政赤字には、焼け石に水となり、増税規模(税率)は事後もどんどん膨らまされる可能性大。
・ 増税(税率アップ)の前に、特別会計改革、デフレ政策の転換を行うべき。
・ 民主党の事業仕分けは、細かい事業の仕分けばかりで、国の制度をいじらないので、特殊法人や特別会計は手つかずである。 デフレ政策(=円高政策)も放置されている。
・ マスコミは許認可、税率への手心により役所、財務省に逆らいにくくなっている。 民主党は元来、社会主義的なうえ、支持母体に役所の労組がいるため、国有化=国有資産増大の政策に走りがちである。 マスコミ、民主党は財務省のシナリオ通り動く状況になっている。
・ 増税=税率アップは、財務省の権限拡大に直結する。 税率アップは、毎年のGDPに対する公的部門経由の資金シェアを高めることになるので、税収に依らず、財務省の支配力を高めることになる。 また、税率アップにより業界ごとに特例(低減税率)を施す余地が大きくなるので、これも業界支配の取引材料に使える。
・ 国際機関(IMF)の増税勧告は、IMFに出向している財務官僚が書いている可能性が高い。
・ 格付け会社の日本国債格下げは、財務省の意向を反映している可能性がある。 格下げ=財政危機煽りとなるし、格付け会社はつい最近まで日本国内で財務省系官庁(大蔵省)の監督下にあったからである。
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以下、当方の感想。
本書の主張内容は大体、当方の考えと同じです。
事実を時系列的に追っていき、論理的に考えていけば、増税前のめりになるのは不可解と誰でも気が付くのでしょう。
もちろん、高橋氏のように、数字や図表を沢山列挙して膨大な書物にまとめあげたりは出来ないでしょうが、わざわざ、財政悪化を起こす政策(バラマキ政策、デフレ政策)を打ちつつ、増税、増税と喚いているのは不思議だ、、という考えには至るはず。
それを財務省の策略、と言うと、陰謀論だ、暗い、という非難を受けたりします。
しかし、民間企業が収益を上げるため、作戦を練って実行するのと同様、財務省が省益拡大のため、作戦を練り実行しても何の不思議もないのです。
でも、国民的には、そういう財務省の行動が国益(国民全体の利益)に反している以上、断固阻止せねばイケナイでしょう。
省益追求行動は、国益低迷、国力低迷になるのだから、最終的には財務省、役所、公務員含め、全ての国民(子々孫々にも)にマイナスなのですから。
本書で、新たに気付かされたのは、国有地や為替介入でため込んだ米国債も売却出来るし、したほうが良いのだな、という点です。
国益にとってマイナスな使われ方、所有(例えば中国による買い占めや乱開発など)をされないよう法律で縛りを掛けるならば、国有地として広大な土地を国が保有する必要はないのです。
また、為替介入も円高阻止に効果無しなのだから、為替介入で国が米国債を買いまくる必要はないです。
これまで買い貯めた米国債も、金融緩和拡大(=通貨供給増大=デフレ政策転換)と同時にゆっくり売却していけば、円高にならずに国の借金減らしに使えます。 米国との同盟関係にもヒビが入らない(というか歓迎される。日本の弱体化回避は中国脅威の抑制になるので)。
世界的に見れば、役所が膨大な資産を独占している日本のほうが異常なのです。
役所がそれら資産を効率的に使って富を生み出すか、というと実際はそうでなく負債が生み出されます。 役所がそれら資産を公正に管理しているか、というと実際はそうでなく利権の温床になってたりする。
役所の資産(国有資産)は極力、民間経済側に戻したほうが、効率的に使われるし、不正があったとしても裁判等で叩けます(役所ではそうはいかない)。
というわけで、国有資産売却、デフレ政策転換、特別会計改革をまずやって、それでもダメなら増税、、これがスジであり、国益を最大化させる道なのでしょう。
年金や復興を口実に、かつ過剰に財政危機を煽って、増税を先行させる今のやり方は明らかにおかしい、と思います。