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セルシスのニュース
*14:04JST ワコム Research Memo(4):2023年3月期は増収ながらも大幅な減益。中低価格低モデルが急減速
■決算概要
1. 2023年3月期の業績概要
ワコム<6727>の2023年3月期の連結業績は、売上高が前期比3.6%増の112,730百万円、営業利益が同84.5%減の2,013百万円、経常利益が同80.0%減の2,868百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同83.6%減の1,792百万円と増収ながら減益となった。
売上高は、円安によるプラス効果※や「テクノロジーソリューション事業」の伸びにより増収を確保した。「ブランド製品事業」については、プロ向けディスプレイ製品が伸長したものの、中低価格モデルが消費者センチメントの低下やコロナ特需の落ち着きなどにより大きく落ち込んだ。
※売上高全体を約156億円押し上げる要因となっている
損益面では、円安効果※1を含む「テクノロジーソリューション事業」の伸びが収益を押し上げた一方、「ブランド製品事業」における粗利益率の低下や売上減少に伴う粗利減※2により営業減益となった。なお「ブランド製品事業」における粗利益率の低下は、製品ミックスの悪化や為替変動の影響※3に加え、棚卸資産評価損等の計上による一過性要因も大きかった。
※1 営業利益全体を約13億円押し上げる要因となった。ただ、セグメント別に見ると、「ブランド製品事業」には約15億円のマイナス要因、「テクノロジーソリューション事業」には約31億円のプラス要因となっており、それぞれ違う出方となっていることには注意が必要である。また、営業外収益として、円安による為替差益(約8億円)を計上している。
※2 販管費の増加分(約25億円)のうち、研究開発費の増加分が約12億円、円安による増加分が約20億円となっている。
※3 為替変動によるドル建て仕入価格の高騰に対してドル建て以外の売上収入の部分がマイナス影響を受けた。
財政状態については、コロナ禍でのサプライチェーンの混乱による棚卸資産(原材料及び貯蔵品)の確保のほか、投資有価証券の増加※により総資産が前期末比2.7%増の75,279百万円に増えた一方、自己資本は安定した配当政策の継続と機動的な自己株式の取得により同6.9%減の40,490百万円に減少した結果、自己資本比率は53.8%(前期末は59.3%)に若干低下した。
※セルシス<3663>との資本業務提携に伴うもの。提携内容や狙いについては、前回フィスコレポート(2022年12月2日発行)を参照。
2. 事業別の業績概要
(1) ブランド製品事業
売上高は前期比21.8%減の41,161百万円、セグメント損失は3,981百万円(前期は8,712百万円の利益)と減収減益となりセグメント損失を計上した。売上高は、主力の「クリエイティブソリューション」(特に中低価格帯モデル)が、世界的な経済環境悪化に伴う急激な消費者センチメントの低下やコロナ特需の落ち着き等により減収となった。「ビジネスソリューション」についても流動的な市況の変化や案件進捗の影響を受けてわずかに減収となった。損益面で大幅な減益(セグメント損失の計上)となったのは、高収益の「ペンタブレット製品」の落ち込み(製品ミックスの悪化)や為替変動によるドル建て仕入価格の高騰に対してドル建て以外の売上収入の部分が為替変動のマイナス影響を受けたほか、棚卸資産評価損等の計上が利益を圧迫したためである。
a) クリエイティブソリューションの売上高
前期比23.4%減の36,948百万円と減少した。製品別に見ると、「ディスプレイ製品」はプロ向け製品※が伸びた一方、消費者センチメントの低下やコロナ特需の落ち着き等により中低価格帯のエントリーモデルが減少した。「ペンタブレット製品」については、経年等の影響によりプロ向け製品が減少するとともに、「ディスプレイ製品」と同様、中低価格帯モデルが大きく落ち込んだ。「モバイル製品他」についても、モバイル製品の売上が減少し減収となった(モバイル製品以外のスタイラスペン製品は増加)。
※2022年9月に市場投入したプロ向けのフラッグシップモデル「Wacom Cintiq Pro 27」の評価も上々のようだ。
b) ビジネスソリューションの売上高
前期比4.2%減の4,213百万円とわずかに減少した。流動的な市況の変化や案件進捗による影響を受けた。
(2) テクノロジーソリューション事業
売上高は前期比27.5%増の71,569百万円、セグメント利益は同21.0%増の10,756百万円と増収増益となった。売上高は、世界的な生産サプライチェーンの制約等による影響が軽微にとどまるなか円安によるプラス効果もあり、「EMRテクノロジーソリューション他」が事業全体の増収に貢献し、「AESテクノロジーソリューション」も増収を確保した。損益面でも、次世代技術開発等に向けた研究開発投資を加速する一方、増収による収益の押し上げや円安によるプラス効果により大幅な増益を実現した。
a) AESテクノロジーソリューションの売上高
OEM提供先メーカー各社から引き続き高い評価を得ており、前期比5.6%増の23,383百万円と伸長した。
b) EMRテクノロジーソリューション他の売上高
OEM提供先メーカーのポートフォリオ変化が奏功し、前期比41.7%増の48,186百万円と大きく伸長した。
3. 2023年3月期の総括
2023年3月期を総括すると、「ブランド製品事業」(中低価格帯モデル)の想定を超える減速をどう評価するかに集約される。コロナ特需のはく落はある程度予想できたものの、消費者センチメントの低下による影響が、流通在庫調整の動きを含めて想定以上に急激で大きく、先行きの不透明感は現在も続いている。特に中低価格帯モデルにおける市場特性として、インフレ進行の初期段階では所得水準が相対的に低い層になるほど消費マインドが左右されやすく、購買優先度も比較的低くなりがちなことを勘案すれば、景気循環的な影響はある程度やむを得ないとの見方もできる。弊社では、取引先(「テクノロジーソリューション事業」におけるOEM提供先メーカー)からの評価の高さや搭載実績、各パートナーとの協業の動きなどから判断して、デジタルペンや同社技術に対するポテンシャルの大きさ自体の評価を変える必要はないと見ている。したがって、いかに自社ブランド製品により景気循環的な影響を受けない市場を掘り起こしていくのかが今後の課題と言えるだろう。その視点に立てば、現在推進中の中期経営方針「Wacom Chapter 3」をアップデートし、新たな付加価値提供による商品ポートフォリオの刷新や集中領域での事業構築、B2Bチャネルの強化など、今後2年間で「事業構造変革」に取り組む方向性を打ち出したところは前向きに評価したい。特にポテンシャルの大きなクリエイティブ教育分野の取り込み、あるいはユーザーの裾野拡大に向けて、しっかりとユースケースの開拓や体験型アプローチをかけていくことをテーマに掲げたところは、まさに基盤となる市場の創出や育成を目指すものであり、改めて今後やるべきことが明確になったという点においてもプラスの材料と言えるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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1. 2023年3月期の業績概要
ワコム<6727>の2023年3月期の連結業績は、売上高が前期比3.6%増の112,730百万円、営業利益が同84.5%減の2,013百万円、経常利益が同80.0%減の2,868百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同83.6%減の1,792百万円と増収ながら減益となった。
売上高は、円安によるプラス効果※や「テクノロジーソリューション事業」の伸びにより増収を確保した。「ブランド製品事業」については、プロ向けディスプレイ製品が伸長したものの、中低価格モデルが消費者センチメントの低下やコロナ特需の落ち着きなどにより大きく落ち込んだ。
※売上高全体を約156億円押し上げる要因となっている
損益面では、円安効果※1を含む「テクノロジーソリューション事業」の伸びが収益を押し上げた一方、「ブランド製品事業」における粗利益率の低下や売上減少に伴う粗利減※2により営業減益となった。なお「ブランド製品事業」における粗利益率の低下は、製品ミックスの悪化や為替変動の影響※3に加え、棚卸資産評価損等の計上による一過性要因も大きかった。
※1 営業利益全体を約13億円押し上げる要因となった。ただ、セグメント別に見ると、「ブランド製品事業」には約15億円のマイナス要因、「テクノロジーソリューション事業」には約31億円のプラス要因となっており、それぞれ違う出方となっていることには注意が必要である。また、営業外収益として、円安による為替差益(約8億円)を計上している。
※2 販管費の増加分(約25億円)のうち、研究開発費の増加分が約12億円、円安による増加分が約20億円となっている。
※3 為替変動によるドル建て仕入価格の高騰に対してドル建て以外の売上収入の部分がマイナス影響を受けた。
財政状態については、コロナ禍でのサプライチェーンの混乱による棚卸資産(原材料及び貯蔵品)の確保のほか、投資有価証券の増加※により総資産が前期末比2.7%増の75,279百万円に増えた一方、自己資本は安定した配当政策の継続と機動的な自己株式の取得により同6.9%減の40,490百万円に減少した結果、自己資本比率は53.8%(前期末は59.3%)に若干低下した。
※セルシス<3663>との資本業務提携に伴うもの。提携内容や狙いについては、前回フィスコレポート(2022年12月2日発行)を参照。
2. 事業別の業績概要
(1) ブランド製品事業
売上高は前期比21.8%減の41,161百万円、セグメント損失は3,981百万円(前期は8,712百万円の利益)と減収減益となりセグメント損失を計上した。売上高は、主力の「クリエイティブソリューション」(特に中低価格帯モデル)が、世界的な経済環境悪化に伴う急激な消費者センチメントの低下やコロナ特需の落ち着き等により減収となった。「ビジネスソリューション」についても流動的な市況の変化や案件進捗の影響を受けてわずかに減収となった。損益面で大幅な減益(セグメント損失の計上)となったのは、高収益の「ペンタブレット製品」の落ち込み(製品ミックスの悪化)や為替変動によるドル建て仕入価格の高騰に対してドル建て以外の売上収入の部分が為替変動のマイナス影響を受けたほか、棚卸資産評価損等の計上が利益を圧迫したためである。
a) クリエイティブソリューションの売上高
前期比23.4%減の36,948百万円と減少した。製品別に見ると、「ディスプレイ製品」はプロ向け製品※が伸びた一方、消費者センチメントの低下やコロナ特需の落ち着き等により中低価格帯のエントリーモデルが減少した。「ペンタブレット製品」については、経年等の影響によりプロ向け製品が減少するとともに、「ディスプレイ製品」と同様、中低価格帯モデルが大きく落ち込んだ。「モバイル製品他」についても、モバイル製品の売上が減少し減収となった(モバイル製品以外のスタイラスペン製品は増加)。
※2022年9月に市場投入したプロ向けのフラッグシップモデル「Wacom Cintiq Pro 27」の評価も上々のようだ。
b) ビジネスソリューションの売上高
前期比4.2%減の4,213百万円とわずかに減少した。流動的な市況の変化や案件進捗による影響を受けた。
(2) テクノロジーソリューション事業
売上高は前期比27.5%増の71,569百万円、セグメント利益は同21.0%増の10,756百万円と増収増益となった。売上高は、世界的な生産サプライチェーンの制約等による影響が軽微にとどまるなか円安によるプラス効果もあり、「EMRテクノロジーソリューション他」が事業全体の増収に貢献し、「AESテクノロジーソリューション」も増収を確保した。損益面でも、次世代技術開発等に向けた研究開発投資を加速する一方、増収による収益の押し上げや円安によるプラス効果により大幅な増益を実現した。
a) AESテクノロジーソリューションの売上高
OEM提供先メーカー各社から引き続き高い評価を得ており、前期比5.6%増の23,383百万円と伸長した。
b) EMRテクノロジーソリューション他の売上高
OEM提供先メーカーのポートフォリオ変化が奏功し、前期比41.7%増の48,186百万円と大きく伸長した。
3. 2023年3月期の総括
2023年3月期を総括すると、「ブランド製品事業」(中低価格帯モデル)の想定を超える減速をどう評価するかに集約される。コロナ特需のはく落はある程度予想できたものの、消費者センチメントの低下による影響が、流通在庫調整の動きを含めて想定以上に急激で大きく、先行きの不透明感は現在も続いている。特に中低価格帯モデルにおける市場特性として、インフレ進行の初期段階では所得水準が相対的に低い層になるほど消費マインドが左右されやすく、購買優先度も比較的低くなりがちなことを勘案すれば、景気循環的な影響はある程度やむを得ないとの見方もできる。弊社では、取引先(「テクノロジーソリューション事業」におけるOEM提供先メーカー)からの評価の高さや搭載実績、各パートナーとの協業の動きなどから判断して、デジタルペンや同社技術に対するポテンシャルの大きさ自体の評価を変える必要はないと見ている。したがって、いかに自社ブランド製品により景気循環的な影響を受けない市場を掘り起こしていくのかが今後の課題と言えるだろう。その視点に立てば、現在推進中の中期経営方針「Wacom Chapter 3」をアップデートし、新たな付加価値提供による商品ポートフォリオの刷新や集中領域での事業構築、B2Bチャネルの強化など、今後2年間で「事業構造変革」に取り組む方向性を打ち出したところは前向きに評価したい。特にポテンシャルの大きなクリエイティブ教育分野の取り込み、あるいはユーザーの裾野拡大に向けて、しっかりとユースケースの開拓や体験型アプローチをかけていくことをテーマに掲げたところは、まさに基盤となる市場の創出や育成を目指すものであり、改めて今後やるべきことが明確になったという点においてもプラスの材料と言えるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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