日銀は追加緩和に踏み切れるのか?

著者:矢口 新
投稿:2015/10/27 18:09

追加緩和は新興諸国の反発を買う

日銀の金融政策決定会合が30日に迫ってきた。政府は2020年までには、名目GDPを現状の2割増となる600兆円に拡大させたいとしている。私は、そのためには(日本経済最大のパワーである個人消費の拡大や、企業の実質売上高に貢献する)消費減税が不可欠だと見ているが、追加緩和による円安や株高は少なくとも一助にはなる。

一方で、日本政府の意向だけで経済政策を行える時代ではない。主要各国は注視するべきリスクとして、通貨高、コモディティ価格の下落、新興国の経済減速の3つを強調している。

ここでの円安は、主要通貨高、(ドル高による)コモディティ価格の下落、(日本の競争力回復による)新興国の経済減速に繋がりかねない。

つまり、日銀が追加緩和に踏み切れるかどうかは、欧州や中国のように、自国域内経済の減速が世界のリスクだと主張できるか、米国のように内部環境よりも外部環境に配慮するか、どうかにかかっていると言える。

1年前の2014年10月31日に、日銀は追加緩和を行い、外為市場、株式市場などに「黒田バズーカ」と呼ばれる効果を与えた。「黒田バズーカ」の内容は、以下の3つだ。

1、マネタリーベースを年間約80兆円(当初の異次元緩和に約10~20兆円追加)に相当するペースで増加させる。

2、長期国債について、保有残高が年間約80兆円(約30兆円追加)に相当するペースで増加するよう買入れを行う。買入れの平均残存期間を7年~10年程度に延長する(最大3年程度延長)。

3、ETFおよびJ-REITについて、保有残高がそれぞれ年間約3兆円(3倍増)、年間約900億円(3倍増)に相当するペースで増加するよう買入れを行う。新たにJPX日経400に連動するETFを買入れの対象に加える。

また、CP等、社債等については、従来通りそれぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持するとした。

一方、日銀は2013年4月以降、政策金利や誘導目標金利と呼ばれるものを設置しておらず、現状では利上げも利下げもできない状態だ。銀行預金についての準備預金制度における準備率引き下げ、過準備金に対する付利金利の引き下げは可能だが、銀行は貸出残の増加以上に、預金残の増加が続いているカネ余り、運用難状態なので、準備率や付利金利を引き下げても、緩和効果の実効は期待できない。

では、引き下げによるアナウンスメント効果はどうかというと、むしろ避けたい状況だ。

先週22日、ECBのドラギ総裁は同日行われた理事会後の記者会見で、インフレ率押し上げに向け、ECBのマイナス預金金利を含む新たな金融緩和策を、早ければ12月の理事会で発表する可能性があると表明した。

また、ECBが注視する主要リスクとしてユーロ高、コモディティ価格の下落、新興国の経済減速の3つを強調、現在月額600億ユーロの国債買い入れを2016年9月まで完全実施するとし、それ以降の継続もあり得るとした。

ECBが追加緩和の可能性を明言したことで、ユーロは対ドルでも、対円でも下落した。しかし、対ドルでの下落幅の方が大きく、ドル円は上昇した。

23日には、中国人民銀行が追加利下げとともに、預金準備率引き下げを実施した。中国の金融緩和はこの1年で6回目、二つの金融緩和策を同時に行う異例の措置は、2回連続となり、中国経済減速に対する危機感を表した。

同23日に発表された、中国9月の主要70都市新築住宅価格は、39都市が前月から値上がり、8月の35都市から加速した。値下がりは21都市と、8月の25都市から減少。10都市が横ばいだった。値上がりが半数を上回ったのは1年5カ月ぶりとなった。

中国の不動産融資残高は9月末時点で前年同期比20.9%増と、6月末時点の19.4%増から加速している。金融機関は1─9月期、1兆9200億元(約3024億3000万ドル)の住宅ローンを実行、前年同期の5961億元から3倍以上に急増した。これを見ても、中国は本気で景気のテコ入れに動いている。そして、必要ならばさらなる追加緩和も辞さない構えだ。不動産部門はGDPの15%を占めるとされている。

ECBが注視する3つの主要リスク、ユーロ高、コモディティ価格の下落、新興国の経済減速のうち、ユーロ高を元高と言い換えれば、中国は3つのすべてを共有している。

米国はどうか? 米連銀は雇用市場の改善と、インフレ率の(年率2%前後での)安定を金融政策の二大目的としている。ここで、先週までの米失業保険申請件数は52週平均では一貫して低下、40年来の低水準となった。9月の消費者物価コア指数は前月比+0.2%、前年比+1.9%だった。

一方で、米連銀は空前のマネタリーベースの残高を維持したまま。史上最低の政策金利を維持したままだ。上記のように、米国内の内部環境は、既に、未曽有の金融危機時の緊急事態の金融政策を正当化できる状況ではないにも関わらず、外部環境に配慮した金融政策を維持している。ECBや中国と同様、通貨高、コモディティ価格の下落、新興国の経済減速リスクを注視しているのだ。28日のFOMCで利上げ時期が明言されたとしても、ここまで外部環境に配慮してきた事実は変わらない。

日銀が行える緩和政策は、「黒田バズーカ」3つの拡大による円安、株高誘導だ。しかし、ここでの円安は、ユーロ高(元高、ドル高)、(ドル高による)コモディティ価格の下落、(日本の競争力回復による)新興国の経済減速に繋がりかねない。

つまり、日銀が追加緩和に踏み切れるかどうかは、欧州や中国のように、自国経済の減速が世界のリスクだと主張できるか、米国のように内部環境よりも、外部環境に配慮するかにかかっているかだと言える。

名目GDPを現状の2割増となる600兆円に拡大させたいという理由では、主要各国、新興諸国の反発を買うかもしれない。
配信元: 達人の予想