*12:51JST アンジェス Research Memo(1):希少遺伝性疾患の検査受託サービス事業が拡大
■要約
アンジェス<4563>は、1999年に設立された大阪大学発のバイオベンチャーで、長期ビジョンとして「遺伝子医薬のグローバルリーダー」になることを目指している。2020年に先進ゲノム編集技術の開発を行うEmendoBio Inc.(以下、Emendo)を子会社化したほか、2021年には国内で希少遺伝性疾患の新生児向けオプショナルスクリーニング検査を行う衛生検査所「アンジェスクリニカルリサーチラボラトリー(以下、ACRL)」を開設し、検査受託サービスを開始した。
1. 主要開発パイプラインの動向
米Eiger BioPharmaceuticals Inc.(以下、アイガー)からの導入品であるHGPS及びプロセシング不全性PL治療剤「ゾキンヴィ」※1の製造販売承認を2024年1月に取得した。今後薬価収載手続きを行い、同年夏以降の販売開始を予定している。HGF遺伝子治療用製品の「コラテジェン(R)」は、同年前半に国内の製造販売に関する本承認取得が期待され、米国では後期第2相臨床試験の結果が発表される予定となっている。一方、Emendoは同年3月にスウェーデンのバイオベンチャーであるAnocca ABと、ゲノム編集における課題である「オフターゲット効果」を回避できる独自のOMNI-A4ヌクレアーゼに関する非独占的ライセンス契約を締結したことを発表した。Annocaは同ヌクレアーゼを用いて遺伝子改変T細胞療法※2の1つであるTCR-T細胞治療薬の開発を進めることになる。契約一時金50万米ドルと開発マイルストーンを合わせた総額は最大で約100百万米ドルとなるほか、製品が販売された場合にはロイヤリティを受け取る可能性がある。Emendoは知識集約研究開発体制に移行するため、イスラエルでの研究開発体制をスリム化し、今後は米国での臨床試験開始準備やライセンス交渉を強化していく方針だ。
※1 HGPS(ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群)の死亡リスク低減、プロセシング不全性早老性PL(プロジェロイド・ラミノパチー)の治療剤で、欧米では販売承認済み。HGPSやPLは遺伝子の突然変異で発症し、症状としては深刻な成長障害、強皮症に似た皮膚、全身性脂肪性筋萎縮症、脱毛症、骨格形成不全、動脈硬化の促進などがあり、動脈硬化性疾患により若年期に死亡するとされ、HGPSの平均年齢は14.5歳と報告されている。世界の患者数は600人程度、日本でも難病指定されており「ゾキンヴィ」の対象となる患者数は数名程度と見込まれている。
※2 遺伝子改変T細胞療法とは、患者自身から取り出したT細胞内にがん抗原特異的T細胞受容体(TCR)やキメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子改変操作によって発現させ、同細胞を増殖させて体内に戻すことでがん細胞を攻撃する治療法。国内ではCAR-T細胞療法の「キムリア(R)」(ノバルティス ファーマ(株))が2019年に製造販売承認されている。CAR-Tは血液がん領域、TCR-Tは固形がん領域で開発が進められている。
2. ACRLの取り組み状況
2023年12月期の検査受託サービス売上高は、(一社)希少疾患の医療と研究を推進する会(以下、CReARID(クレアリッド))を通じた検査数の拡大により、前期比約2倍の115百万円となった。2024年4月以降は自治体や関連機関からの受託を新たに開始するほか、確定診断となる遺伝学的検査サービスについても同年夏から開始すべく準備を進めており、収益貢献する見通し。将来的には治療効果のモニタリングを行うバイオマーカー検査も行い、希少遺伝性疾患に関する検査をワンストップで提供することで医療関係者や患者ニーズに応えるとともに、希少遺伝性疾患の新たな治療薬の開発にもつなげていく考えだ。
3. 業績動向
2023年12月期の事業収益は152百万円(前期比85百万円増)、営業損失は11,967百万円(同4,349百万円減)となった。事業収益は、検査受託サービスや「コラテジェン(R)」の増加に加えて、ゲノム編集技術に関連した売上14百万円を計上した。費用面では、円安によるのれん償却額の増加やEmendoの事業再編費用を計上したものの、国内の新型コロナウイルス予防ワクチン(以下、コロナワクチン)の開発中止で研究開発費が同4,826百万円減少し、営業損失の縮小要因となった。2024年12月期は事業収益で600百万円(前期比447百万円増)、営業損失で8,450百万円(同3,517百万円減)を見込む。事業収益は、検査受託サービスや「コラテジェン(R)」の拡大に加えて「ゾキンヴィ」の販売やOMNI-A4ヌクレアーゼのライセンス契約一時金が上乗せ要因となる。費用面ではEmendoの研究開発体制再編により研究開発費が約30億円減少し、営業損失の縮小要因となる。2023年12月期末の現金及び預金は4,160百万円まで減少しているが、当面は第三者割当てによる新株予約権付社債の発行等により、事業活動資金を調達する方針である。
■Key Points
・早老症治療剤「ゾキンヴィ」の製造販売承認を取得、2024年夏以降販売開始へ
・HGF遺伝子治療用製品は2024年前半に国内で本承認取得、米国で後期第2相臨床試験の結果が判明する見通し
・Emendoの研究開発体制を知識集約型に移行、2024年3月に初のライセンス契約締結を実現
・希少遺伝性疾患の検査サービスは検査領域及び受託先の拡大により、2024年12月期から収益化の見通し
・2024年12月期はEmendoの研究開発費減少により営業損失の縮小が続く見通し
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<AS>
アンジェス<4563>は、1999年に設立された大阪大学発のバイオベンチャーで、長期ビジョンとして「遺伝子医薬のグローバルリーダー」になることを目指している。2020年に先進ゲノム編集技術の開発を行うEmendoBio Inc.(以下、Emendo)を子会社化したほか、2021年には国内で希少遺伝性疾患の新生児向けオプショナルスクリーニング検査を行う衛生検査所「アンジェスクリニカルリサーチラボラトリー(以下、ACRL)」を開設し、検査受託サービスを開始した。
1. 主要開発パイプラインの動向
米Eiger BioPharmaceuticals Inc.(以下、アイガー)からの導入品であるHGPS及びプロセシング不全性PL治療剤「ゾキンヴィ」※1の製造販売承認を2024年1月に取得した。今後薬価収載手続きを行い、同年夏以降の販売開始を予定している。HGF遺伝子治療用製品の「コラテジェン(R)」は、同年前半に国内の製造販売に関する本承認取得が期待され、米国では後期第2相臨床試験の結果が発表される予定となっている。一方、Emendoは同年3月にスウェーデンのバイオベンチャーであるAnocca ABと、ゲノム編集における課題である「オフターゲット効果」を回避できる独自のOMNI-A4ヌクレアーゼに関する非独占的ライセンス契約を締結したことを発表した。Annocaは同ヌクレアーゼを用いて遺伝子改変T細胞療法※2の1つであるTCR-T細胞治療薬の開発を進めることになる。契約一時金50万米ドルと開発マイルストーンを合わせた総額は最大で約100百万米ドルとなるほか、製品が販売された場合にはロイヤリティを受け取る可能性がある。Emendoは知識集約研究開発体制に移行するため、イスラエルでの研究開発体制をスリム化し、今後は米国での臨床試験開始準備やライセンス交渉を強化していく方針だ。
※1 HGPS(ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群)の死亡リスク低減、プロセシング不全性早老性PL(プロジェロイド・ラミノパチー)の治療剤で、欧米では販売承認済み。HGPSやPLは遺伝子の突然変異で発症し、症状としては深刻な成長障害、強皮症に似た皮膚、全身性脂肪性筋萎縮症、脱毛症、骨格形成不全、動脈硬化の促進などがあり、動脈硬化性疾患により若年期に死亡するとされ、HGPSの平均年齢は14.5歳と報告されている。世界の患者数は600人程度、日本でも難病指定されており「ゾキンヴィ」の対象となる患者数は数名程度と見込まれている。
※2 遺伝子改変T細胞療法とは、患者自身から取り出したT細胞内にがん抗原特異的T細胞受容体(TCR)やキメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子改変操作によって発現させ、同細胞を増殖させて体内に戻すことでがん細胞を攻撃する治療法。国内ではCAR-T細胞療法の「キムリア(R)」(ノバルティス ファーマ(株))が2019年に製造販売承認されている。CAR-Tは血液がん領域、TCR-Tは固形がん領域で開発が進められている。
2. ACRLの取り組み状況
2023年12月期の検査受託サービス売上高は、(一社)希少疾患の医療と研究を推進する会(以下、CReARID(クレアリッド))を通じた検査数の拡大により、前期比約2倍の115百万円となった。2024年4月以降は自治体や関連機関からの受託を新たに開始するほか、確定診断となる遺伝学的検査サービスについても同年夏から開始すべく準備を進めており、収益貢献する見通し。将来的には治療効果のモニタリングを行うバイオマーカー検査も行い、希少遺伝性疾患に関する検査をワンストップで提供することで医療関係者や患者ニーズに応えるとともに、希少遺伝性疾患の新たな治療薬の開発にもつなげていく考えだ。
3. 業績動向
2023年12月期の事業収益は152百万円(前期比85百万円増)、営業損失は11,967百万円(同4,349百万円減)となった。事業収益は、検査受託サービスや「コラテジェン(R)」の増加に加えて、ゲノム編集技術に関連した売上14百万円を計上した。費用面では、円安によるのれん償却額の増加やEmendoの事業再編費用を計上したものの、国内の新型コロナウイルス予防ワクチン(以下、コロナワクチン)の開発中止で研究開発費が同4,826百万円減少し、営業損失の縮小要因となった。2024年12月期は事業収益で600百万円(前期比447百万円増)、営業損失で8,450百万円(同3,517百万円減)を見込む。事業収益は、検査受託サービスや「コラテジェン(R)」の拡大に加えて「ゾキンヴィ」の販売やOMNI-A4ヌクレアーゼのライセンス契約一時金が上乗せ要因となる。費用面ではEmendoの研究開発体制再編により研究開発費が約30億円減少し、営業損失の縮小要因となる。2023年12月期末の現金及び預金は4,160百万円まで減少しているが、当面は第三者割当てによる新株予約権付社債の発行等により、事業活動資金を調達する方針である。
■Key Points
・早老症治療剤「ゾキンヴィ」の製造販売承認を取得、2024年夏以降販売開始へ
・HGF遺伝子治療用製品は2024年前半に国内で本承認取得、米国で後期第2相臨床試験の結果が判明する見通し
・Emendoの研究開発体制を知識集約型に移行、2024年3月に初のライセンス契約締結を実現
・希少遺伝性疾患の検査サービスは検査領域及び受託先の拡大により、2024年12月期から収益化の見通し
・2024年12月期はEmendoの研究開発費減少により営業損失の縮小が続く見通し
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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