CHROに何を聞くか~人財戦略の見える化と実効性

著者:鈴木 行生
投稿:2022/06/01 11:35

・上場企業で、CHRO(チーフ ヒューマンリソース オフィサー)を置く企業が増えている。人事担当の役員というレベルから、さらに果たすべき役割が上がっている。人事部長とCHROは何が違うのか。かつて、経理部長とCFOはその役割が異なる、といわれたことと重なる。

・CEOは企業価値創造に向けて、次のビジネスモデルを構築し、そのために必要なリソースを調達し、具体的に実行していく。その経営戦略の遂行において、CFOは財務戦略を担い、CHROは人財戦略を担当する。

・当然、実行における最終責任は、各々の役割においてCFO、CHROが取っていく。現状(「As is」)と、創りたいあるべき姿(「To be」)のギャップをいかに埋めていくか。CHROは、経営戦略上の人財の調達、開発、育成において、その全責任を担う。

・今やどの企業においても人財は不足している。役員、管理職、専門職、若手など、どのレベルでも、もっとできる人財がほしい。一定程度できる人材と思ってアサインしても、役割が果たせないことも多い。外部からの採用も思うようでない。そうなると組織能力が十分整わないので、成長路線にも陰りが出てこよう。

・社内のポスト争いで派閥ができたり、足の引っ張り合いをしたり、ということもよくみられる。アナリストとして、会社のさまざまな役職者にインタビューする。その時、何気なく本来のコンテンツ以外に、その人のキャリアを聞くことにしている。

・レポートの中に書くわけではないが、人物を知るという意味では重要である。そうすると、時として社内の人事の動きがよく見えてくる。

・2022年2月に、経産省から「人材版伊藤レポート2.0」(案)が出された。「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書である。2020年9月に人材版伊藤レポート1.0が出されたが、それを実行するにはどうしたらよいか、という観点から、取り組みの具体策についてまとめたものである。

・人事のプロからみると、提言内容は当たり前のように映るかもしない。どの会社も自社なりの人事に関する仕組みを持っており、それなりの歴史や経営者の思いの上に成り立っている。よって、中々変えられない。変えるにしても小幅なものにとどまってしまうことも多い。

・サステナビリティを確保するESGの一環として、人材の活用、働き方のあり方を抜本的に見直して、自社の経営に革新をもたらすことが求められている。しかし、大きな変革の実行は難しい。通常、追い込まれた時にしか踏み切れない。しかし、その時では遅い。

・会社が順調な局面にあっても、次の飛躍に向けて脱皮したいと考える経営者は多い。それを人的資本からどうみていくのか。投資家は通常財務資本の成果から企業を評価していくが、その前段階である人的資本の生業(なりわい)を分析する必要がある。

・今回のレポート2.0では、①CHROを設置せよ、②指名委員会の委員長を社外取締役にせよ、③役員報酬を人財KPIと連動させよ、④人財ポートフォリオのギャップ分析をしっかり実施せよ、⑤博士専門人財を採用せよ、⑥社内起業、出向起業を支援せよ、⑦健康やwell-being戦略を立案せよ、と提案している。

・筆者もアナリストとして、これらの点についてぜひCEOに聞いてみたい。どんな反応が返ってくるだろうか。1)すでに十分分かっており実施している。2)わが社にとって重要ないくつかの項目はぜひ実行していきたい。3)いろいろ指摘されるが、今のわが社にはあまり関係なさそうなので、必要があれば検討したい、という3つくらいの反応が想定される。

・人財戦略が経営戦略と連動しているか。多くの会社は、当然連動して実施していると答えるであろう。人材の採用、組織の再編による人事異動、人材の評価に伴うプロモーションは常に実施していよう。しかし、大きな企業になればなるほど、こうした動きの成果は外部から見えにくい。そこで人財戦略をCHROに語ってもらい、具体的な動きを可視化(見える化)してほしい。

・レポート2.0では、人材戦略として、5つの取り組みを提案している。第1は、新しいビジネスモデル(価値創造の仕組み)創りに向けて、人材の動的ポートフォリオを構築する。その中で、専門人材として、博士の資格者を活用することはできるかを問うている。

・第2に、知・経験のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)において、アウトプットとアウトカムのつながりを重視する。外国人材の採用を、国内のおいても同じルールで展開する。

・第3に、スキルギャップを埋めるために、リスキリング(学び直し)は必須である。とりわけ、不足する人材を充実するために、キーパースンの外部採用を積極化する。

・第4に、従業員エンゲージメントにおいて、主体性や意欲を引き出すために、ストレッチ・アサインメントを実行する。海外では、ストレッチ・アサインメントにおいて、ターンアラウンド、組織変革、事業創造などのミッションが明確に課せられる。さらに、タフ・アサインメントでは、B/S、P/L、C/Fの結果責任も付いている。

・第5に、時間や場所に捉われない働き方が実行できるようにする。リモートワークで生産性を上げるには、全く新しい仕組みが必要である。

・20代、30代の人材育成に力を入れている会社は活気がある。人材獲得競争に打ち勝つ処遇のあり方や、その評価方法についても知りたい。ジョブが明確で、通年採用をしている会社に人は集まりやすい。

・人の出入りはあっても、人財が育って、個人も組織も行動変容して、価値創造に取り組んでいけるカルチャーが醸成されていれば、その会社のサステナビリティは強い。投資家としては、こうした人的資本の価値を、経営力、成長力、リスクマネジメント、ESGと結び付けて的確に評価したい。そのためのエンゲージメントを日々実践したいと思う。

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配信元: みんかぶ株式コラム