■要約
窪田製薬ホールディングス<4596>は革新的な眼疾患治療薬及び医療デバイスの開発を進める米クボタビジョン・インクを子会社に持つ持株会社である。現在は、近視の進行を抑制または改善させる効果が期待されるウェアラブル近視デバイス「クボタメガネ」と、スターガルト病※及び網膜色素変性を適応対象とした治療薬候補品の開発を主に進めている。また、加齢黄斑変性等の網膜疾患患者向けの遠隔医療眼科用モニタリングデバイス「PBOS(Patient Based Ophthalmology Suite)」はパートナー企業が見つかり次第、商業化に向けた取り組みを進める方針となっている。
※スターガルト病:遺伝性の若年性黄斑変性で、症状の進行とともに視力の低下や色覚障害を引き起こし、有効な治療法がいまだ確立されていない稀少疾患。患者数は欧米、日本で合計約15万人弱と少ない。
1. クボタメガネの開発状況
同社はメガネのいらない世界をつくるという理想を掲げ、「クボタメガネ」の開発を推進している。同デバイスは網膜に人工的な光刺激を能動的に与える同社独自のクボタメガネテクノロジー(アクティブスティミュレーション技術※1)を用いており、自然光を受動的に用いる他社先行品よりも眼軸長※2を効果的に短縮することが可能と見られる。2020年12月に商業化に向けた初期型のプロトタイプが完成したことを発表し、メディアにも多く取り上げられ国内外で注目度が高まっており、現在は最終デザインの設計段階にある。同社では2021年内には東アジアのいずれかの国で販売を開始したい考えで、現在各国の医療デバイスに関する法規制などを調査しながら対象国の選定を進めている。世界における近視人口は年々増加しており、同社は潜在的な市場規模として2030年に全世界で最大1兆3千億円の市場の可能性を有していると見ている。同社の今後の動向が注目される。
※1 アクティブスティミュレーション技術:ナノテクノロジーを用いて網膜に能動的に人工的な光刺激を与えて近視の進行抑制、治療を目指す同社独自の技術。特許も申請中となっている。
※2 角膜から網膜までの長さ。成人の場合、平均約24mmで、1~2mmでも長くなると、ピントが網膜より手前で合ってしまうため、遠くが見えにくくなる(=近視)。
2. 開発パイプラインの状況
そのほかの主要開発パイプラインのうち、スターガルト病治療薬候補の「エミクススタト塩酸塩」については、第3相臨床試験の被験者登録が完了しており、順調に進めば2022年第3四半期以降に試験結果のデータベースロックが完了する見込みだ。有効性が確認されれば販売承認申請を行う予定で、販売パートナー契約についても、承認申請が視野に入った段階で交渉が本格化するものと予想される。一方、「PBOS」については、スイスの大学病院と共同研究契約を締結し、撮影した網膜断面の3D画像の解像度の検証やソフトウェア改良並びに患者データの収集を行っている段階にある。同データを持ってパートナー候補企業との協議を進め、販売契約が締結されれば米国にて商業化に向けた臨床試験を共同で開始していくものと予想される。そのほか、VAP-1阻害剤については、共同研究契約先の大手製薬企業であるLeo Pharma A/S(デンマーク)でスクリーニング評価を実施しているほか、2020年12月には米国国立がん研究所にも候補化合物を提出し、同研究所にて抗がん活性のスクリーニング評価を開始している。
3. 業績動向
2020年12月期の連結業績は、NASAからの開発受託金収入37百万円を事業収益として計上し、営業損失は研究開発費の減少を主因として前期比804百万円縮小の2,484百万円となった。2021年12月期は「クボタメガネ」の販売開始を想定し、事業収益10百万円を見込んでいる。一方、営業損失は「クボタメガネ」の商業化に向けた関連費用の増加により2,900百万円とやや拡大する見通しだ。なお、2020年12月期末の手元資金は約63億円となっており、当面の事業活動を行うに当たっての資金は十分に確保されている。また、2020年7月に発行した第三者割当による新株予約権の行使は順調に進んでおり、2021年1月末時点で未行使分は625万株相当となっている。
■Key Points
・近視の進行を抑制または改善する効果が期待される「クボタメガネ」は、2021年内の販売開始を目標に開発を進める
・「PBOS」は販売パートナー契約締結に向けた研究データを集積中。今後の展開はパートナー次第
・スターガルト病を適応症とした第3相臨床試験の結果は2022年第3四半期にデータロックが完了する見込み
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<EY>
窪田製薬ホールディングス<4596>は革新的な眼疾患治療薬及び医療デバイスの開発を進める米クボタビジョン・インクを子会社に持つ持株会社である。現在は、近視の進行を抑制または改善させる効果が期待されるウェアラブル近視デバイス「クボタメガネ」と、スターガルト病※及び網膜色素変性を適応対象とした治療薬候補品の開発を主に進めている。また、加齢黄斑変性等の網膜疾患患者向けの遠隔医療眼科用モニタリングデバイス「PBOS(Patient Based Ophthalmology Suite)」はパートナー企業が見つかり次第、商業化に向けた取り組みを進める方針となっている。
※スターガルト病:遺伝性の若年性黄斑変性で、症状の進行とともに視力の低下や色覚障害を引き起こし、有効な治療法がいまだ確立されていない稀少疾患。患者数は欧米、日本で合計約15万人弱と少ない。
1. クボタメガネの開発状況
同社はメガネのいらない世界をつくるという理想を掲げ、「クボタメガネ」の開発を推進している。同デバイスは網膜に人工的な光刺激を能動的に与える同社独自のクボタメガネテクノロジー(アクティブスティミュレーション技術※1)を用いており、自然光を受動的に用いる他社先行品よりも眼軸長※2を効果的に短縮することが可能と見られる。2020年12月に商業化に向けた初期型のプロトタイプが完成したことを発表し、メディアにも多く取り上げられ国内外で注目度が高まっており、現在は最終デザインの設計段階にある。同社では2021年内には東アジアのいずれかの国で販売を開始したい考えで、現在各国の医療デバイスに関する法規制などを調査しながら対象国の選定を進めている。世界における近視人口は年々増加しており、同社は潜在的な市場規模として2030年に全世界で最大1兆3千億円の市場の可能性を有していると見ている。同社の今後の動向が注目される。
※1 アクティブスティミュレーション技術:ナノテクノロジーを用いて網膜に能動的に人工的な光刺激を与えて近視の進行抑制、治療を目指す同社独自の技術。特許も申請中となっている。
※2 角膜から網膜までの長さ。成人の場合、平均約24mmで、1~2mmでも長くなると、ピントが網膜より手前で合ってしまうため、遠くが見えにくくなる(=近視)。
2. 開発パイプラインの状況
そのほかの主要開発パイプラインのうち、スターガルト病治療薬候補の「エミクススタト塩酸塩」については、第3相臨床試験の被験者登録が完了しており、順調に進めば2022年第3四半期以降に試験結果のデータベースロックが完了する見込みだ。有効性が確認されれば販売承認申請を行う予定で、販売パートナー契約についても、承認申請が視野に入った段階で交渉が本格化するものと予想される。一方、「PBOS」については、スイスの大学病院と共同研究契約を締結し、撮影した網膜断面の3D画像の解像度の検証やソフトウェア改良並びに患者データの収集を行っている段階にある。同データを持ってパートナー候補企業との協議を進め、販売契約が締結されれば米国にて商業化に向けた臨床試験を共同で開始していくものと予想される。そのほか、VAP-1阻害剤については、共同研究契約先の大手製薬企業であるLeo Pharma A/S(デンマーク)でスクリーニング評価を実施しているほか、2020年12月には米国国立がん研究所にも候補化合物を提出し、同研究所にて抗がん活性のスクリーニング評価を開始している。
3. 業績動向
2020年12月期の連結業績は、NASAからの開発受託金収入37百万円を事業収益として計上し、営業損失は研究開発費の減少を主因として前期比804百万円縮小の2,484百万円となった。2021年12月期は「クボタメガネ」の販売開始を想定し、事業収益10百万円を見込んでいる。一方、営業損失は「クボタメガネ」の商業化に向けた関連費用の増加により2,900百万円とやや拡大する見通しだ。なお、2020年12月期末の手元資金は約63億円となっており、当面の事業活動を行うに当たっての資金は十分に確保されている。また、2020年7月に発行した第三者割当による新株予約権の行使は順調に進んでおり、2021年1月末時点で未行使分は625万株相当となっている。
■Key Points
・近視の進行を抑制または改善する効果が期待される「クボタメガネ」は、2021年内の販売開始を目標に開発を進める
・「PBOS」は販売パートナー契約締結に向けた研究データを集積中。今後の展開はパートナー次第
・スターガルト病を適応症とした第3相臨床試験の結果は2022年第3四半期にデータロックが完了する見込み
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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