COVID-19禍のCEOに求められるもの~経営力の評価に向けて

著者:鈴木 行生
投稿:2021/01/06 11:58

・経営者の経営力をいかに見抜くか。投資家にとっては最も重要なことである。結果が出てから納得するのは容易であるが、これまでの成功が今後も続くとは限らない。経営環境は刻一刻と変化し、時に激変ショックがやってくる。

・たとえガバナンスのきいた指名委員会で選任されたとしても、その人が適任かどうかはなかなか見抜けない。それでも経営者の経営能力を何としても知りたい、と投資家はたえず努力している。

・世界経営者会議で、KPMGから「KPMGグローバルCEO調査2020~COVID-19特別版」が報告された。その資料を参考に、コロナ禍にあって、経営者は何を呻吟しているのかについて咀嚼してみたい。

・平時と有事では、リーダーシップに求められる資質が異なる。今回のコロナ危機では、1)経営における優先課題の見直しが迫られ、2)社員の健康を第一に考え、3)社会への貢献をとりわけ重視すべし、ということがサーベイで示された。

・具体的には、①企業の組織としてのパーパス(存在意義)を再確認し、②市場の変化に適応できる人材の確保に取り組み、③自社のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させることが必須となった。

・コロナショックを受けて、世界の経営者はどんなガバナンスに直面したのか。ヒューマンキャピタル(人的資本)の重要さに改めて気付き、人件費は単なる費用ではなく、無形資産として、いかに投資していくかが問われた。

・デジタル資本主義はすでに始まっていたが、バリューチェーン全体の中で、DXをいかに推進するか。すでに大きな格差が生まれているが、デジタル化はまだ始まったばかりであり、これから10年が勝負となる。

・ステークホルダーに対する長期的価値の提供が一段と重視されるようになり、将来の働き方ではリモートワークにどこまで委ねるのか。グローバルサプライチェーンのあり方も再検討する必要がある。

・組織の目的が、経済的価値と社会的価値の両面での追求にあるとしても、1)その積集合(共通部分)に集中するだけでよいのか、2)積集合を大きくするには、和集合の見直しも必要となる。3)将来の共通部分をどのように定義していくかも必要である。この観点でパーパス(存在意義)を見直すべし、という提言は的確である。

・ESGによる企業価値の向上において、例えばサプライチェーンの全体において、弱い顧客、弱い働き手、弱い地域などをどう扱うか。強みと効率だけの最適化に特化してよいのか。リスク分散を考慮しながらも、時間軸を長期に持っていくことが求められる。これが許容できるであろうか。

・組織の運営において、CEOが自社のパーパスに対して、より感情移入するようになったとサーベイは報告している。コロナへの対応で、今まで以上に熱意を持って共感を行動に移そうとしている。確かに、経営にはビジョンとパッションが不可欠である。

・しかし、パッションに流されては、無謀な行動に陥ってしまうかもしれない。将来の姿をビジネスモデルとして具体化するには、冷静で論理的な分析とそれを踏まえた戦略が必要である。この戦略を的確に作れない企業が多い。コロナショック後の経営者のパッションに改めて注目したい。

・バリューチェーンの全体に目を配ると、コロナショックを踏まえて、いかに人を守り、社会を守るかが第一義的となっている。企業行動における優先順位(プライオリティ)が変化している。そう簡単に戻りそうにない。自然災害、気候変動とともに、パンデミック型感染症も組み込んで、価値創造に取り組む必要がある。それができる企業に投資したいと思うのは当然である。

・弱者のため社会的支援を、緊急事態として行うことはもちろん、平時においても継続的に活動することが広がろう。それを広義の企業価値創造にいかに結び付けていくか。ここのKPIにも着目したい。

・バリューチェーンがデジタル化で変質していく。従来のリアルな業務プロセスにデジタル化が入るにつれて、業務プロセス自体がDXで根本から変わっていく。B to Bにおいても、B to Cにおいても、対面の持つ価値付けが変化していこう。

・定型的な取引はもちろん、新規取引のスタートや着地においても、対面と同様の臨場感を、デジタル空間で提供することがここ5年で大きく進展しよう。やっぱり会わなければ話が進まない、という固定観念は見直す必要がある。人々の意識は急速に変化している。では、肌で感じる信頼感をいかに醸成していくのか。ここに取り組む企業にチャンスが来そうである。

・サーベイに見られるリスクの変化も興味深い。世界のCEOが認識した成長に対する脅威では、2019年の順位が①環境/気候変動リスク、②最先端技術/破壊的技術のリスク、③保護主義の回避であったものが、2020年7~8月では1)人材リスク、2)サプライチェーンリスク、3)保護主義の回避に変化した。

・投資家による経営力の評価において、マテリアリティとプライオリティは絶えず変化する。評価すべき軸も時代とともに変化していくが、それ以上に各々の軸に対する重み(インポータンス)が変わっていく。この重み付け(allocation of importance)が投資家の価値観の表れでもある。企業経営のCEOにも自ら認識する重みがあるので、CEOと投資家の互いの主観的重みのすり合わせが重要となっている。

・ESGの軸においても、その一貫性、比較可能性、透明性が問われる。より開放的であるとともに、何が最適化という議論になると、かなりの相違もでてこよう。合意できない面もいろいろ出てきそうである。改めて、本当の共感とは何かが問われよう。

・本サーベイでは、ニューリアリティの考察として、①パーパス(存在意義)、②プロスペリティ(成長と繁栄)、③プライオリティ(優先課題)のあり方を分析している。それを踏まえながら、企業価値創造における経営者の経営力をいかに見抜いていくか。ますます腕を磨きたい。

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配信元: みんかぶ株式コラム