日立のソーシャルイノベーション~スマートシティはいかに

著者:鈴木 行生
投稿:2020/12/16 15:20

・日立製作所は創業110年、5つの事業分野のイノベーションで社会に貢献しようとしている。COVID-19で生活は一変しており、制約のある環境資源に中で、節約だけでは77億人は生きていけない。サステナブルに豊かな社会を創っていくには、イノベーションが不可欠である。それを日立はソーシャルイノベーションと名付けている。

・11月に恒例の日立ソーシャルイノベーションフォーラムがWebで開催された。東原社長の講演など、いくつかのセッションを拝聴した。特に印象的であった点を、スマートシティに関連付けて取り上げてみる。

・電車を待っている時、ホームに人が増えてくると電車が頻繁に来るようになる。人が少なくなってくると電車がくる間隔が空いてくる。こうした日立のシステムが、コペンハーゲンで実証実験されている。

・いわゆるイノベーションと社会イノベーションの違いは何か。お掃除ロボットは道具で、道具を便利にするイノベーションといえる。社会イノベーションでは、もっとつながりを大事にして、結びつきから新しい価値を生みだそうとする。

・例えば、世界にいくつもの工場がある時、工場間の連携ができれば、それは1つの工場として動かせる。工場をつなげて、1つの世界工場にしようという試みが、ダイキンと日立によって展開されている。実際、今年6月からフッ素化学品の数百品目を連携させて、生産の決定期間を大幅に短縮させている。

・QOL(生活の質)にとっての価値とは何か。同じ1ドルのパンでも、タイミングや場所によって価値は変わる。生活や仕事の仕方、仲間との会話、モノやサービスのデリバリーなど、工夫は限りなく広がっていく。AIを活用してQOLを向上させる。最小の資源で、最大のQOLを実現するスマートシティ作りに、日立は取り組んでいる。

・街としてのQOLの向上に向け、エリアとエリアをつなぐことによってスマートワールドへ広げていく。日立では、AIのルマーダ(Lumada:illuminate+data)をプラットフォームにして、IT+OT+Productの力を合わせて、すでに1000件のユースケースを作っている。

・今後とも、新しいパートナーと一緒にソリューションを追求して、ソーシャルイノベーションを推進する、と東原社長は力強く語った。価値創出のスピードを一段と上げていく方針である。

・QOLの向上には、ハピネス(幸せ)が欠かせない。幸福に暮らすこと(Well-being)は、かなり主観的である。健康寿命は延びているが、それで自分が思う主観的な幸福度が上がっているとは必ずしもいえない。

・ヒトは一人では生きられない。誰かとつながって、何らかの貢献をしているという気持ちが大事である。会社における働き方においても、決められたことを命令されて、黙ってやるだけでは、給料のためとはいえ楽しくない。いやなことを我慢してやるのが仕事である、という見方はもはや通用しない。

・フランクに会話が成り立ち、フラットにつながって、信頼できる関係が築けている働く場は気持ちがよく、リモートワークでも生産性は高いかもしれない。かといって、ずっとリモートでは寂しい。

・生活の場においても同じで、孤立した空間では生きていけない。笑いと共に、役割や誰かに貢献するやりがいが必要であろう。旧世代と新世代が一緒に共存し、互いを刺激しあい、尊重することで、変化を受け入れていくことができる。

・Z世代はデジタルネイティブであり、SDGsネイティブである。では、どんな暮らしを創っていくのか。シニアとヤング、ファミリーが一緒に暮らし、働く街がよい。デジタルを活用してデータをとり、便利さも追及するが、街に少しお節介な人がいる工夫も求められる。

・主観的な幸福感は人にとって異なる。集団としての幸福感も文化によって違う。達成感を重視する場合もあれば、人並みの満足を求める場合もある。コロナと戦うのか、コロナに順応するのか、その姿勢にも違いが出る。独立心か協調心かという対立も起こりえよう。

・すぐに好き嫌いを持ち込んで、差別したり、壁を作ったりしないようにしたい。スマートシティが、ある特定の人々のクラス(階級)になってはならない。でも、一定の生活水準を前提にすると、格差が生まれそうである。人は同質を好み、群れる習性があるともいえる。

・東京などの中核都市中心ではなく、地方郊外の街がそれぞれコンパクトなスマートシティを形成していく方が望ましい。シニア棟、ファミリー棟が混在している。生活の場、仕事の場がコネクティド交通で移動できる。買い物、ヘルスケアサポート、観光、エンタメもエリアごと、エリア間で特色を出して、デジタルでつながっていく。

・デジタルスマートシティは、環境、エネルギー、交通、水資源などにおいても、災害に強く、セキュリティも守られている。これから50年かけて、日本の生活空間は大きく作り変えられていこう。

・生活におけるデジタルデバイドを減らし、互いにハピネスを感じられるような共感の場を創っていく。センサーを使ってAIを働かせれば、プライバシーの侵害ではなく、心の状態を気遣うこともできるようになろう。

・ここにイノベーションを持ち込み、あらゆることを投資と捉える。当然、リターンを求める。その時のリターンをどのように定義するか。インフラ投資にリターンはあるのか。公共と民間を分けるにしても、できるだけ民間の役割を重視する必要がある。その時、民間企業においてもSDGsをベースにしたESG投資を考慮することが当たり前となってこよう。ステークホルダーがそれを求めるからである。

・とすると、日立が追求するソーシャルイノベーションは、ビジネスの王道ということになる。これを建前と捉えるか、次のビジネスモデル(価値創造の仕組み)のあるべき姿と捉えるか。東原社長は本気でビジネスモデルの革新に取り組んでいる。その1つの分野がスマートシティの推進であろう。スマートシティにはあらゆる事業が関わってくる。今後の成長産業となろう。

・実際、スマートシティ(都市のデジタル化)がこれから加速しそうである。NRIの機関誌「知的資産創造」(10月号)が、スマートシティの実装について特集している。そのエッセンスを抽出してみると、次の5点になろう。

・第1は、QOL(生活の質)の向上と都市のレジリエンス(強靭さ)の強化である。かつては田園都市をイメージしてニュータウンが作られたが、それが40年を過ぎてくると、生活者も含めて見直しが迫られている。都市に人々が集まることで集積効果を発揮してきたが、負の側面がCOVID-19 でさらに露わになっている。郊外型の住みやすい街が新たに求められている。

・第2は、住宅、商業、オフィスなど人が滞在する空間、とりわけビルにおいては、利用者のQOLからみて、3S(Small、Smart、Safety)が加速する方向にある。QOLの向上には、利用者のデータを収集し、その分析を通して適切なバランスを図る必要がある。ワンフロアの大部屋に集まる必要はない。

・第3は、まちのエネルギー、モビリティ、BCPなどを、デジタル化によって緻密にコントロールしていく。そのためには、街のガバナンスを第三者が適切に担っていく必要がある。実際、MaaS(移動の総合的サービス)の導入においても、効率性と収益性をみながら、オンデマンド、シェアリング、自動運転などの導入が大きく進もう。

・第4は、生活者や働く人々が、こうした施設サービスを簡単に利用できるスーパーアプリの台頭である。いろいろなアプリがバラバラにあるのは使いにくい。デジタルデバイドを避けさせるためにも、共有化、簡便化が求められる。こうしたデジタルプラットフォームの戦いも激しさを増そう。

・第5は、COVID-19 に強い街づくりである。デジタルの活用で感染症の検知、検査、追跡、隔離、治療などを速やかに進める必要がある。非接触の常態化と、リアルとリモートのハイブリッド化のバランスを図る必要がある。感染症に強い街づくりは、スマートシティのレジリエント化(強靭化)と軌を一にしている。デジタル・ツイン(リアル+サイバー空間の双子利用)による新しいデザインの継続的な導入がまちのサステナビリティの確保には不可欠である。

・このようなスマートシティにぜひ住んでみたい。同時に、新しい投資機会として関連企業にも大いに注目したい。

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配信元: みんかぶマガジン
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