ヘルスケアのDX~EMシステムズのケース

著者:鈴木 行生
投稿:2020/09/07 10:34

・クリニック(医院)、薬局、介護施設のDX(デジタル トランスフォーメーション)に取り組んでいる企業がある。かなり革新的である。今、ヘルスケアのDXはどうなっているのか。NRIの機関誌「知的資産創造」(7月号)の内容を踏まえて、EMシステムズの展開をみてみよう。

・医療、介護に関わる社会保障費が50兆円に近づいているが、これが20年後には倍増すると予想される。GDPが順調に伸びれば問題ないが、不安は残る。入院施設を持つ病院の経営は苦しい。クリニックでは世代交代が進む。介護施設はこれからますます不足してくる。とりわけ、介護人材は今後5年で30万人~40万人は足らないとみられている。

・PHR(Personal Health Record)は、個人の健康・医療情報を電子記録として把握する仕組みであるが、まだ局所的である。例えば、私の健康診断情報、病歴情報、服薬歴などはまだバラバラで、一元的に正確に知ることはできない。これがまとまってくれば、データを日常生活の改善にまでつなぐことができる。

・また、PHRのデータを一元的にまとめることで、HER(Electronic Health Record)も大きく進展しよう。HERとは医療機関や薬局など関連施設間での情報連携の仕組みである。医療ビックデータとして安全に蓄積できれば、個人情報は守りながら、二次情報として医療・介護サービスの開発、質の向上、効率化に活かすこともできるようになろう。

・5GでDXはますます加速する。ヘルスケアの既存ビジネスをDXで変身させるだけでなく、ヘルスケアへの新しいDXの適用で新規ビジネスを生み出すことができる。予防、治療、リハビリなど、どちらかといえば、人海戦術に頼るアナログ産業からいかに脱皮していくか。面白い局面に入ってこよう。

・例えば、私の個人金融資産の全容をFP(ファイナンシャルプランナー)にどこまでみせるか。よほど信頼していても、一定の限界があるかもしれない。それが一元的にデータとして知られてしまうとしたら、かなり躊躇しよう。

・健康データに関して、あちこちの病院やクリニックにある病歴データや、薬局にある服薬データなどが、一元的にまとめられるのはどうか。特定のドクター、特定の薬剤師が私の健康のために、過去データを活用して、現在の病気や健康状態について的確な治療、アドバイスをしてくれるのなら、それを嫌がる必要はない。個人健康情報は誰にも知られたくないわけではない。本人の役に立つなら問題ない。

・二次活用についてはどうか。本人のデータと特定されずにビックデータとしてまとめられ活用されるのであれば、データ連携は大いに進めてほしい。NRIの分析によれば、主要14か国の先進事例に比べて日本に遅れている。HER推進の大前提である電子カルテの普及率が先進国の90%以上ではなく、まだ40%台である。

・予防にもいろいろある。健康管理の一次予防、重症化防止の二次予防、再発防止の三次予防、あるいは、要介護にならず自立した生活を送れるようにする介護予防など、それぞれのレベルでDXによるデジタル活用が大いに期待される。

・要介護者は現在の267万人が25年後には400万人超えてこよう。サービスを提供する人材が今と同じ状態なら80万人以上不足してくる。75歳以上の比率は2060年まで上がってくる。国の介護費も10兆円から20年後には20兆円を超えてこよう。

・なぜ人材不足が続くのか。現状をみると、1)介護業界の給与水準が低く、2)仕事がきつく、3)労働時間が安定しない、ことにある。記録・請求などの紙ベースの業務処理が多い。人材のITリテラシーが低い。自治体ごとに書類フォーマットが違う。こうした課題も山積みである。

・どうすればよいか。NRIでは、科学的介護の推進に着目している。IT、センサー、ロボットを導入して作業の自動化を進め、介護者本人以外への付随的作業効率を大幅に高めることである。無理は承知しているが、やればできるという決意で官民とも進出してほしい。民間にはやれば儲かるという利潤動機も重要である。

・EMシステムズの挑戦をみてみよう。業界シェアを塗り替える方針である。2020年3月で、調剤システムの当社の顧客は16233件、シェア32.5%、医科システムの顧客は2810件、シェア3.1%、介護福祉システムの顧客は13752件、シェア5.5%であった。

・このシェアを今後とも上げていく。5年後には、調剤システムでシェア50%(2.5万件)、医科システムでシェア10%(1万件)を目指す。介護システムは当初5%(1万件)を目標としたが、1年目のM&Aで達成してしまった。次は2万件以上を目指すことになろう。

・薬局市場では、新型コロナウイルスの影響で、薬局への来局数の減少が顕著である。処方も長期化しているので、処方箋枚数が減少している。一方で、服薬の遠隔指導や薬の配達ニーズが高まっている。

・医科市場では、コロナの影響で診療科目のよっては受診を控える動きが顕著である。初診からオンライン診療ができる特例措置もとられている。介護市場では、コロナの影響で、通所介護や短期入所生活介護の休業が増加した。

・コロナショックの影響としては、非接触型のヘルスケアサービスが本格的に工夫されることになろう。業界の常識が大きく変化するきっかけとなろう。営業サービスにおいても非対面化が進むものとみられる。

・薬局経営においては、薬剤師の本来業務以外の効率化が進められようとしている。入力業務やピッキング業務、在庫管理業務などの自動化が図られよう。新規開業の医師は全員電子カルテシステムを導入する。これを薬局とつなぐことも重要なテーマである。介護・福祉施設では、人手不足が顕著である。クリニックの電子カルテ、薬局の電子薬歴と同じように、介護記録の自動化が求められている。

・2019年3月期を初年度とする中期5ヵ年経営計画で、新たなイノベーションをスタートさせた。そこでは、一部ストック型から完全ストック型にビジネスモデルを全面的に切り換える。そのため、最初の業績は大幅に落ち込む。

・しかし、ストック化への切り換えはかつて経験しており、課金ビジネスのベースもできているので、乗り切ることができよう。そして、その後は他社を圧倒する競争力を発揮し、課金のベースも大きく積み上がってくるので、いずれピーク利益の更新が十分期待できよう。

・会社方針では、EHR、PHRに関わる情報提供だけでなく、健康の水準向上に実際に貢献することを掲げた。中期計画における取り組みの中で、医療情報の連携ではNECと協業することにした。NECは病院に強く、逆にその分野しか手掛けていない。当社はクリニック(診療所)、薬局、介護を中心とする。双方が補完的に連携できることになる。

・健康サポート薬局の支援では、調剤だけのシステムではなく、新しい領域のシステムが必要となっている。この追加機能を自社及び他社と組んで開発していく。新しい薬局の活動領域を100とすると、今の調剤システムは30~40%をカバーしているにすぎない。

・当社はデータセンターをEHR(医療情報の連携)の核にしようとしている。処方箋の電子化が進もう。紙と電子化が混在しては本来の効果がでない。当社のEHRは、紙のカルテやレセプトがあってもかまわずに利用できることを前提にしているので、活用の範囲はもう少し広い。電子化が進むと、メールオーダーができるようになる。これはネット薬局ができることにもなるので、業界の構造を一変させる可能性がある。

・EHRとしては511施設のモニターについてデータを共有、モニターからは好評である。医師が診断して薬の処方箋を出す。今どういう薬をもらって服用しているのかが情報の共有を通してわかるようになる。

・当社はデータセンターを所有しているので、このようなEHRを速やかに実施することができる。これまでは、患者と薬局を結んできたが、電子カルテを通して医師と繋がることができると、これは便利になる。個人のデータがPHR(Personal Health Record、個人健康記録)として記録され、お薬手帳が電子化されていく。

・電子カルテや介護事業者向けシステムを軸にしたEHRのビジネスモデルにも先行投資をしている。今後ともM&Aや人材投資を行う必要があろうが、その方向はかなり見えてきた。具体的な成果も出始めており、当社の優位性は今後一段と発揮されててこよう。

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配信元: みんかぶマガジン
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