[資源・新興国通貨9/7~11の展望] トルコリラが対米ドルで最安値。一段安の可能性も!?

著者:八代和也
投稿:2020/09/04 14:42

豪ドル

RBA(豪中銀)は1日、政策金利と3年物豪国債の利回り目標のいずれも0.25%に据え置きました。その一方で、「ターム物資金調達ファシリティー(TFF。銀行に低金利で資金を供給する制度)」の規模を約2000億豪ドルへ拡大するとともに、期間の延長(2020年9月末→2021年6月末へ)も決定。RBAは3月時点では「TFFの規模は少なくとも900億豪ドル」としていました。

豪ドルについては「米ドルがここ数カ月間、ほとんどの通貨に対して下落しており、このような状況と商品価格の上昇によって豪ドルは約2年ぶりの高値付近へ上昇した」との表現にとどまりました。豪ドル高に対して懸念は示されませんでした。

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RBAが豪ドル高に懸念を示さなかったことは、豪ドル/米ドルにとってプラス材料と考えられます。また、豪ドル/米ドルは会合時に0.74米ドル前後で推移していたため、それを参考にすると、RBAは少なくとも0.74米ドル前後の水準を容認しているとの見方ができそうです。

一方で、NYダウが3日に急落しました(前日比807.77ドル安)。米国の株価の下落が続く場合には、リスクオフの動きが進む可能性があります。投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)に反映しやすい豪ドルにとって、リスクオフはマイナス材料です。

来週(9/7- )発表の豪州の主要経済指標は、8月NAB企業景況感指数(8日)や9月ウエストパック消費者信頼感指数(9日)。ただ、いずれも材料としては力不足の感があり、結果に反応したとしても一時的に終わるかもしれません。

NZドル

オアRBNZ(NZ中銀)総裁は2日、「(RBNZは)必要となる場合に備え、追加の政策手段を用意している」と改めて表明。追加手段として、マイナス金利の導入、大規模資産購入プログラム(量的緩和)の拡大、銀行への直接貸し出し、フォワードガイダンス(金融政策の先行きについてあらかじめ示したもの)の強化を挙げました。オア総裁はまた、NZドルの上昇については「懸念していない」と発言。NZドルは対米ドルで約1年2カ月ぶりの高値圏にあります。

RBNZが追加緩和の可能性を示したことは今回が初めてではなく、追加緩和はある程度市場に織り込まれていると考えられます。一方、市場では「RBNZはNZドル高への懸念を強めている」との見方がありました。そのため、オア総裁が「懸念していない」と語ったことのインパクトは大きいとみられ、NZドルはとりわけ対米ドルで堅調に推移する可能性があります。主要国の株価動向や米FOMCの結果にも影響は受けますが、NZドル/米ドルは目先、0.69690米ドル(2018/12/4高値)が上値メドになりそうです。

カナダドル

9日、BOC(カナダ中銀)の政策会合があります。その結果がカナダドルの動向に影響を与える可能性があります。会合では、「政策金利(0.25%)」と「量的緩和(週間で少なくとも50億カナダドルの国債や企業の短期債を購入する)の規模」のいずれも据え置くことが決定されそうです。その通りの結果になれば、声明で「カナダ景気」についてどのような見方が示されるのかに注目。前向きな景気認識が示された場合、カナダドルの支援材料となりそうです。

一方で、原油価格が足もとで軟調に推移しています。米WTI原油先物(原油価格の代表的な指標)の10月物は8月26日に一時43.78ドルへと上昇し、約5カ月半ぶりの高値を記録。その後反落し、9月3日には一時40.22ドルへと値下がりしました。WTI原油先物が一段安になれば、カナダドルの上値を抑える可能性があります。

トルコリラ

出所:リフィニティブより作成

トルコリラは今週(8/31- )、対米ドルで過去最安値を記録しました。「TCMB(トルコ中銀)の外貨準備の減少」や「トルコとギリシャの関係悪化」などを背景にリラに対して下押し圧力が加わりやすい地合いです。8月のインフレ統計でトルコの高インフレが再確認されたことで、下押し圧力は一段と強まりました。

また、銀行の平均資金調達金利の上昇が今週に入り一服していることを受け、市場では「TCMB(トルコ中銀)の“裏口”の金融引き締めが終了した可能性がある」との観測が浮上しています。TCMBはリラ安への対応策の1つとして、1週間物レポ金利(政策金利。現行8.25%)を通じた資金供給を停止し、より金利水準の高い翌日物貸出金利(9.75%)や後期流動性貸出金利(11.25%)へと誘導。市場金利を押し上げてきました。政策金利を据え置いたまま、流動性を絞ることで実質的に金融引き締めを行っているため、市場は「“裏口”の金融引き締め」と呼んでいます。

平均資金調達金利が今後も安定して推移して裏口の金融引き締めが終了したとの観測が一段と高まれば、リラに対する下押し圧力はさらに強まりそうです。

南アフリカランド

8日、南アフリカの4-6月期GDP(国内総生産)が発表されます。コロナの影響によって4-6月期のGDPは大幅なマイナスになったとみられます。GDPの結果を受けて南アフリカ景気をめぐる懸念が高まる場合、ランドは軟調に推移する可能性があります。

また、エスコム(国営電力会社)は、3日まで3日間連続で全国的な計画停電を実施(4日も実施予定)。停電が長期化すれば低迷する経済をさらに下押す可能性があり、ランドにとってマイナス材料です。

一方で、ランドは投資家のリスク意識の変化を反映しやすいという特徴があります。主要国の株価動向など、リスク意識に影響を及ぼす要因にも目を向ける必要がありそうです。ランドにとってリスクオンはプラス材料、リスクオフはマイナス材料です。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)議事録(8/13開催分。8/27に公表)を受けて、24日の次回会合で利下げするとの観測が市場で浮上しています。8月13日の会合では、「実質金利が “ゼロ近く”あるいは“マイナス”となる可能性を排除することなく、利下げサイクルを継続することが重要だ」との認識を示した政策メンバーがいたことが、議事録で判明しました。メキシコの実質金利(政策金利から前年比のCPI上昇率を引いたもの)は、3日時点で0.88%です(政策金利:4.50%、7月CPI上昇率:3.62%)。

9日、メキシコの8月CPI(消費者物価指数)が発表されます。CPI上昇率が7月の前年比3.62%から加速すれば、「BOMの利下げ余地が小さくなる」との見方から次回会合での利下げ観測が後退し、メキシコペソが堅調に推移しそうです。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想