[資源・新興国通貨8/17~21の展望] トルコ中銀会合に注目!! リラ相場に影響!?

著者:八代和也
投稿:2020/08/14 16:43

豪ドル

ロウRBA(豪中銀)総裁は14日、「新たな債券買い入れプログラムの導入や一連の政策措置の調整を行う可能性は排除していない」と述べました。一方で、「最善の行動は現在の政策を継続すること」と語り、またマイナス金利については「豪州で導入する可能性は極めて低い」と発言。現時点でマイナス金利の導入を含め追加緩和は必要ないとの見解を示しました。RBAは3月に政策金利を0.25%へと引き下げるとともに、3年物豪国債の利回り目標を新たに導入。国債利回りを0.25%前後に維持するため、必要に応じて国債の買い入れを行うとの方針を示しています。

RBA議事録が18日に公表されます。今回の議事録は8月4日の政策会合時のもので、この会合では金融政策の現状維持が決定されました。(政策金利:0.25%、3年物豪国債の利回り目標:0.25%前後)。議事録で“RBAの金融政策は当面据え置き”との市場の観測が補強され、かつ豪ドル高への懸念が示されなければ、豪ドルは堅調に推移する可能性があります。

NZドル

RBNZ(NZ中銀)は12日、金融政策を発表。政策金利を過去最低の0.25%に据え置く一方、LSAP(大規模資産購入)プログラムの規模を600億NZドルから1000億NZドルへと拡大しました。

声明では、「追加の金融政策パッケージを引き続き準備する必要がある」と表明。また、「パッケージにはマイナス金利も含まれ、外国資産の購入も選択肢だ」とし、将来的にマイナス金利を導入する可能性を示しました。

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RBNZが追加緩和に踏み切り、またマイナス金利導入の可能性を示したことは、NZドルに対する重石となりそうです。来週(8/17- )はNZの経済指標の発表がなく、NZドルは独自材料で上昇しにくいかもしれません。主要国株価が上昇するなどしてリスクオフが後退しない限り、NZドルは上値が重い展開が予想されます。

カナダドル

カナダドルは今週(8/10- )、対米ドルで6カ月半ぶり、対円で約2カ月ぶりの高値をつけました。米WTI原油先物(原油価格の代表的な指標)の上昇や米国の新規失業保険申請件数の改善が、カナダドルの支援材料となりました。WTI原油先物は今週、約5カ月ぶりの高値を記録。新規失業保険申請件数(8/13発表)は96.3万件と、市場予想(112.0万件)以上に前週の118.6万件から減少しました。原油はカナダの主力輸出品であり、カナダの輸出の7割強が米国向けです。

足もとのWTI原油先物の上昇の背景には、米国の追加経済対策への期待や中国などで原油需要が回復するとの観測があります。WTI原油先物が一段と上昇した場合、カナダドルはさらに上昇しそうです。カナダドル/円については、米ドル/円の動向の影響も受けるものの、81.859円(6/5高値)に近づくかもしれません。

トルコリラ

トルコリラは先週(8/3- )、対ユーロや対円で過去最安値を記録。対米ドルでも10日に過去最安値をつけました。リラ安の主な要因として、「トルコ当局はリラの買い支えが困難との観測」や「TCMB(トルコ中銀)のインフレ対策が不十分(政策金利から消費者物価上昇率を引いた「実質金利」は大幅なマイナス)との見方」などが挙げられます。

トルコ当局は国営銀行を通じてリラを買い支えていたものの、その結果としてリラ買い介入の原資となる外貨準備が大幅に減少しています。TCMBの外貨準備(金を除く)は足もとで約466億米ドル。2019年12月末時点では約812億米ドルでした。外貨準備の減少は、トルコ当局によるリラの買い支え余力が乏しくなることを示唆しています。

TCMBは11日、「プライマリーディーラー(政府証券公認ディーラー)向けに実施している政策金利(8.25%)を下回る金利での貸し付けを12日から停止する」と発表。低金利での貸し付けを止めて資金調達コストを上昇させることによってリラを下支えすることが狙いとみられます。

ただ、これはその場しのぎの策に過ぎないと考えられます。リラ安に歯止めをかけるためには、TCMBの利上げが必要でしょう。20日の政策会合でのTCMBの決定がリラの動向に大きな影響を与えそうです。

リラ安やインフレ圧力の高まりを考えれば、TCMBは24日の会合で利上げすべきと考えられますが、それは簡単ではなさそうです。エルドアン大統領が利上げに反対しているからです。エルドアン大統領は7日に「リラのボラティリティの高まりは一時的なものであり、コロナの感染拡大が主要な問題だ」と述べ、11日には「市場金利が一段と低下することを望む」と語りました。

エルドアン大統領はかつて、自らの利下げ要求に従わないとして当時のチェティンカヤTCMB総裁を解任したことがあります(2019/7)。そして、ウイサル総裁が就任すると、TCMBはただちに利下げを開始。チェティンカヤ総裁解任時に24.00%だった政策金利は8.25%まで低下しました。“TCMBはエルドアン大統領の影響下にある”と市場はみています。

TCMBが利上げを見送った場合、リラに対する下押し圧力は一段と強まりそうです。一方、利上げが簡単ではないとみられるなか、TCMBが利上げに踏み切ればサプライズとなり、リラは上昇するとみられます。

南アフリカランド

南アフリカランドは10日、対米ドルや対円で2カ月半ぶりの安値を記録。その後、コロナのワクチン開発への期待などから市場でリスクオフが後退したことを受け、ランド安は一服しました。

市場では、南アフリカ景気をめぐる懸念があります。同国経済はコロナの影響によって大きく落ち込んでおり、6月小売売上高は前年比マイナス7.5%、6月金生産は同マイナス17.00%、6月鉱業生産は同28.20%でした。景気への懸念を背景にランドは上値が重い展開になるとみられます。加えて、市場でリスクオフが再び強まれば、ランドは下押す可能性があります。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は13日、0.50%の利下げを決定。政策金利を5.00%から4.50%に引き下げました。利下げは10会合連続です。0.50%の利下げは4対1の賛成多数。決定に反対した1人は0.25%の利下げを主張しました。

声明は、メキシコ経済について「スラック(需給の緩み)は(今後)拡大するとみられ、下振れリスクは大きい」と指摘。インフレに関しては「最近のインフレ率やコアインフレ率の上昇は、短期的にそれら(インフレ率やコアインフレ率)の見通しに影響を与えるだろう」としつつも、「いずれも12-24カ月以内には(BOMの目標の)3%近辺で推移する」との見通しを示しました。

今後の金融政策については「可能な政策余地(=利下げ余地)はインフレとインフレ期待に影響を与える要因次第だ」と強調。要因には、新型コロナウイルスのパンデミックによる影響も含まれるとしました。

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メキシコの4-6月期GDP(国内総生産)成長率は、前期比マイナス17.3%。2020年(年間)の成長率については、BOMはマイナス4.6%~マイナス8.8%と予想し、またIMF(国際通貨基金)はマイナス10.5%との見通しを示しています。

景気が大きく落ち込む一方で、原油価格の上昇などを要因に、インフレ率が高まっています。メキシコの7月CPI(消費者物価指数)上昇率は前年比3.62%と、BOMの目標である3%を上回りました(許容レンジである2-4%には収まっています)。足もとの原油価格の上昇を考えると、CPI上昇率は今後高止まりする、あるいは許容レンジ上限の4%に近づく可能性があります。BOMは景気だけでなく、インフレにも警戒し始めるかもしれません。

会合では1人がより小幅な0.25%の利下げを主張し(前回6月は全会一致で0.50%の利下げ)、また「利下げ余地は、インフレとインフレ期待に影響を与える要因の変化次第だ」とされました。これらは、BOMの利下げペースが今後鈍化する可能性を示していると言えそうです。

8月25日に8月前半のCPI、9月9日に8月(月間)のCPIが発表されます。それらでインフレ圧力の高まりが示唆されれば、市場ではBOMの利下げペースの鈍化観測が高まり、さらには利下げ休止観測も浮上するかもしれません。それらの観測が高まることは、メキシコペソにとってプラス材料と考えられます。BOMの次回政策会合は9月24日です。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想