■中長期の成長戦略・トピック
1. 新型コロナウイルスのEMシステムズ<4820>業績への影響
新型コロナウイルスは同社の事業に様々な影響をもたらしている。当社では、現時点(2020年5月末)で、総合的には同社業績へのインパクトは軽微であると見込んでいる。顧客業界の変化に関しては、調剤薬局で来局数の減少と処方の長期化による処方箋枚数の減少が発生している。同社にとっては、一部の契約において従量課金収入が減少する。クリニックでは、一部の診療科目で受診を控える動きがあるのに加え、新規開業の延期が発生しており、結果としてシステム投資も延期される。介護/福祉施設においては、主に通所介護や短期入所生活介護施設において臨時休業が増加した。しかし、総じて言えば、同社の顧客業界はコロナ禍において必要不可欠な業種であり、一部で休業や利用者減などの影響はあったものの、他の業種との相対的な比較ではマイナスの影響は小さかったと言えるだろう。むしろ、経営圧迫要因が増えたために、業務効率化の重要性は増しているとも考えられる。
顧客接点においても新型コロナウイルスは様々な影響を及ぼしている。同社の取引先の大部分が休業要請対象外であるものの、対面による営業活動が顧客サイドからの要望により断られるケースが増加している。また、従来有力なマーケティング活動であった学会・展示/商談会が延期されており、対面による各製品のPR機会が減少している。一方で、同社はWebや電話を活用した営業活動を以前から準備してきた。マーケティングにおいても、「MAPsシリーズ」のリリースと並行して、Web上での顧客向け体験企画・マーケティング活動「オンラインデモンストレーション」や顧客向けにシステムの構成や比較・検討用ツール「MAPsダイレクト」などを準備してきており、非対面手法での補完が十分できる体制にある。そもそも「MAPsシリーズ」の設計思想は、顧客にセルフで選定してもらい、導入・設定してもらうというものであり、時流は追い風である。新型コロナウイルスの影響で、営業手法の見直しが加速化されるという面も見出すことができる。
2. 次世代戦略サービス「MAPsシリーズ(医科、調剤)」が本格展開、介護/福祉版は2020年12月期にリリース予定
同社は2018年11月に、医科・調剤・介護/福祉の垣根を超えた業界初の「共通情報システム基盤」である「MAPsシリーズ」を発表し、既に医科向け(2019年10月出荷開始)と調剤向け(2020年2月出荷開始)がリリースされている。同社の次世代を担う戦略プロダクトであり、中期経営計画の実現は、このサービスの成否にかかっていると言っても過言ではない。その主な特長は(1)操作性を兼ね備えた低価格クラウドサービス、(2)AIなどによる支援機能、(3)一体開発による医科・調剤・介護/福祉従事者間連携機能、である。
(1) 操作性を兼ね備えた低価格クラウドサービス
同社は「MAPsシリーズ」開発に際して、コスト面でも、機能面でも圧倒的なプロダクトを開発して業界を変えることを念頭においてきた。コスト面では劇的な低価格を実現するために完全クラウド型にたどり着いた。クラウド型はハードウェアに依存しないので、極端にいえば市販のパソコンでも導入が可能だ。コストのかかる要因となっていた人的なサポート(設定、インストラクションなど)を前提とせず、ユーザー自身での設定が容易で直感的でスピーディな操作が可能なシステムに仕上げた。そのため、通常のクラウドシステムはオンプレミス版をクラウド化するアプローチを取るが、今回は一からクラウドを前提に開発した。結果として、導入コストは劇的に下がる。医科向けで比較すると、通常のオンプレミス版だと初期費用だけで400万円~500万円するものを、「MAPs for CLINIC」では初期ライセンス費用0円、パソコンを数台導入する費用だけになる。また、月額利用料金も月額2万円から(平均的なクリニックで4台想定、月額3.5万円)とリーズナブルに抑えられている。初期投資+5年間ランニングコストで計算すると、従来比で半減するため、顧客には大きなコストメリットが発生する。
(2) AIなどによる支援機能
「MAPsシリーズ」は価格が安いだけではなく、機能面でも過去のプロダクトを凌駕する高機能・高付加価値である点に特長がある。その一例が「高度なクラウド型問診」機能である。NECと共同開発されたこの機能は、最先端AI技術群「NEC the WISE」が活用されたもので、患者の症状に応じて異なる問診内容が表示される。専門外の診療科目においてもより的確な診察が可能になるため、「かかりつけ」と「専門医」を兼ね備えた診療を支援する。
(3) 一体開発による医科・調剤・介護/福祉従事者間連携機能
同社は「MAPsシリーズ」でシェア拡大だけを狙う訳ではない。医療・介護業界で共通的に必要となる計算ロジックを持つ共通エンジンを他社にも供給するなど、自社だけでなく業界全体の低コスト化、品質向上を図る。これらの施策により利用者を増やすことで、同社のシステムを医療・介護業界におけるデファクト・スタンダードとして、技術面・価格面など業界のリーダーシップを取っていく考えである。既に複数の同業他社との間で共通部分(エンジン、マスタ等)のOEM提供の案件が進んでいる。
同システムの展開については、若干リリースが遅れたものの、医科アプリ及び調剤アプリの出荷が開始された。2020年5月末時点では、約半分の都道府県をカバーした段階である。特に全国チェーンが多い調剤薬局では、全国展開が完了した時点で導入予定の顧客もいるため、導入の本格化はこれからである。また、開発面では、リリース時点が完成ではなく、機能拡張を続けながら完成度を高めていくのが、クラウド型システムである「MAPsシリーズ」の特長でもある。2020年12月期は機能拡張を毎月のように積み上げ、製品競争力の強化を行う予定だ。さらに介護/福祉アプリについても既に開発に着手しており、2020年12月期には全タイプ(医科、調剤、介護/福祉)がそろう予定である。「医科から入り関連する調剤・介護への影響度を広げる」、「調剤から入り関連する医科・介護への影響度を広げる」といった戦術を3方向からできるようになり、同社の強みが十分に発揮されるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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1. 新型コロナウイルスのEMシステムズ<4820>業績への影響
新型コロナウイルスは同社の事業に様々な影響をもたらしている。当社では、現時点(2020年5月末)で、総合的には同社業績へのインパクトは軽微であると見込んでいる。顧客業界の変化に関しては、調剤薬局で来局数の減少と処方の長期化による処方箋枚数の減少が発生している。同社にとっては、一部の契約において従量課金収入が減少する。クリニックでは、一部の診療科目で受診を控える動きがあるのに加え、新規開業の延期が発生しており、結果としてシステム投資も延期される。介護/福祉施設においては、主に通所介護や短期入所生活介護施設において臨時休業が増加した。しかし、総じて言えば、同社の顧客業界はコロナ禍において必要不可欠な業種であり、一部で休業や利用者減などの影響はあったものの、他の業種との相対的な比較ではマイナスの影響は小さかったと言えるだろう。むしろ、経営圧迫要因が増えたために、業務効率化の重要性は増しているとも考えられる。
顧客接点においても新型コロナウイルスは様々な影響を及ぼしている。同社の取引先の大部分が休業要請対象外であるものの、対面による営業活動が顧客サイドからの要望により断られるケースが増加している。また、従来有力なマーケティング活動であった学会・展示/商談会が延期されており、対面による各製品のPR機会が減少している。一方で、同社はWebや電話を活用した営業活動を以前から準備してきた。マーケティングにおいても、「MAPsシリーズ」のリリースと並行して、Web上での顧客向け体験企画・マーケティング活動「オンラインデモンストレーション」や顧客向けにシステムの構成や比較・検討用ツール「MAPsダイレクト」などを準備してきており、非対面手法での補完が十分できる体制にある。そもそも「MAPsシリーズ」の設計思想は、顧客にセルフで選定してもらい、導入・設定してもらうというものであり、時流は追い風である。新型コロナウイルスの影響で、営業手法の見直しが加速化されるという面も見出すことができる。
2. 次世代戦略サービス「MAPsシリーズ(医科、調剤)」が本格展開、介護/福祉版は2020年12月期にリリース予定
同社は2018年11月に、医科・調剤・介護/福祉の垣根を超えた業界初の「共通情報システム基盤」である「MAPsシリーズ」を発表し、既に医科向け(2019年10月出荷開始)と調剤向け(2020年2月出荷開始)がリリースされている。同社の次世代を担う戦略プロダクトであり、中期経営計画の実現は、このサービスの成否にかかっていると言っても過言ではない。その主な特長は(1)操作性を兼ね備えた低価格クラウドサービス、(2)AIなどによる支援機能、(3)一体開発による医科・調剤・介護/福祉従事者間連携機能、である。
(1) 操作性を兼ね備えた低価格クラウドサービス
同社は「MAPsシリーズ」開発に際して、コスト面でも、機能面でも圧倒的なプロダクトを開発して業界を変えることを念頭においてきた。コスト面では劇的な低価格を実現するために完全クラウド型にたどり着いた。クラウド型はハードウェアに依存しないので、極端にいえば市販のパソコンでも導入が可能だ。コストのかかる要因となっていた人的なサポート(設定、インストラクションなど)を前提とせず、ユーザー自身での設定が容易で直感的でスピーディな操作が可能なシステムに仕上げた。そのため、通常のクラウドシステムはオンプレミス版をクラウド化するアプローチを取るが、今回は一からクラウドを前提に開発した。結果として、導入コストは劇的に下がる。医科向けで比較すると、通常のオンプレミス版だと初期費用だけで400万円~500万円するものを、「MAPs for CLINIC」では初期ライセンス費用0円、パソコンを数台導入する費用だけになる。また、月額利用料金も月額2万円から(平均的なクリニックで4台想定、月額3.5万円)とリーズナブルに抑えられている。初期投資+5年間ランニングコストで計算すると、従来比で半減するため、顧客には大きなコストメリットが発生する。
(2) AIなどによる支援機能
「MAPsシリーズ」は価格が安いだけではなく、機能面でも過去のプロダクトを凌駕する高機能・高付加価値である点に特長がある。その一例が「高度なクラウド型問診」機能である。NECと共同開発されたこの機能は、最先端AI技術群「NEC the WISE」が活用されたもので、患者の症状に応じて異なる問診内容が表示される。専門外の診療科目においてもより的確な診察が可能になるため、「かかりつけ」と「専門医」を兼ね備えた診療を支援する。
(3) 一体開発による医科・調剤・介護/福祉従事者間連携機能
同社は「MAPsシリーズ」でシェア拡大だけを狙う訳ではない。医療・介護業界で共通的に必要となる計算ロジックを持つ共通エンジンを他社にも供給するなど、自社だけでなく業界全体の低コスト化、品質向上を図る。これらの施策により利用者を増やすことで、同社のシステムを医療・介護業界におけるデファクト・スタンダードとして、技術面・価格面など業界のリーダーシップを取っていく考えである。既に複数の同業他社との間で共通部分(エンジン、マスタ等)のOEM提供の案件が進んでいる。
同システムの展開については、若干リリースが遅れたものの、医科アプリ及び調剤アプリの出荷が開始された。2020年5月末時点では、約半分の都道府県をカバーした段階である。特に全国チェーンが多い調剤薬局では、全国展開が完了した時点で導入予定の顧客もいるため、導入の本格化はこれからである。また、開発面では、リリース時点が完成ではなく、機能拡張を続けながら完成度を高めていくのが、クラウド型システムである「MAPsシリーズ」の特長でもある。2020年12月期は機能拡張を毎月のように積み上げ、製品競争力の強化を行う予定だ。さらに介護/福祉アプリについても既に開発に着手しており、2020年12月期には全タイプ(医科、調剤、介護/福祉)がそろう予定である。「医科から入り関連する調剤・介護への影響度を広げる」、「調剤から入り関連する医科・介護への影響度を広げる」といった戦術を3方向からできるようになり、同社の強みが十分に発揮されるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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