[資源・新興国通貨6/15~19の展望] 豪ドル:豪中関係に要注意!?

著者:八代和也
投稿:2020/06/12 17:00

豪ドル

米国での新型コロナウイルスの感染“第2波”への警戒感が再燃し、米国株が11日に急落しました。豪ドルには投資家のリスク意識の変化を反映しやすいという特徴があり、主要国の株安などによってリスクオフが進むことは、豪ドル安要因となり得ます。主要国の株価が軟調に推移する場合、豪ドルは上値の重い展開になりそうです。

また、新型コロナウイルスの発生源について独立した調査を豪が求めたことを受け、豪と中国の関係が悪化しています。中国は5月に豪州産牛肉の輸入を制限し、また豪州産大麦に80.5%の追加関税を課すとの措置を発表。さらに6月に入り、自国民に対して豪への留学や渡航を自粛するよう勧告しました。中国のこうした動きに対し、モリソン豪首相は11日に2GBラジオで「脅しには屈しない」と語りました。

豪にとって中国は最大の輸出先。豪の輸出全体の約3割が中国向けです。そのため、豪ドルをみるうえで豪中関係は重要であり、両国の悪化は豪ドルにとってマイナス材料です。今後、両国の関係悪化に市場の意識が向かえば、豪ドルは下押す可能性があります。

NZドル

NZ政府は8日、「新型コロナウイルスに関する警戒レベルを1(4段階のうち最も低い水準)へと引き下げる」と発表。NZでは、現地時間8日23時59分から入国規制を除く全ての制限措置が解除されました。また、NZの5月製造業PMI(購買担当者景気指数)が12日に発表され、結果は39.7でした。業況判断の分かれ目である“50”は3カ月連続で下回ったものの、4月の26.1から改善しました。NZの制限措置の解除や製造業PMIの改善は、NZドルにとってプラス材料と考えられます。

一方で、市場では米国での新型コロナウイルスの感染“第2波”への警戒感が再燃しました。市場の関心はNZ国内の状況以上に、米国の新型コロナウイルスの感染状況や主要国の株価動向へと向かう可能性があります。リスクオフが強まる場合、NZドルには下押し圧力が加わるかもしれません。

カナダドル

カナダドルは米WTI原油先物(原油価格の代表的な指標)の動向に反応しやすい地合いとなっており、その状況は当面続きそうです。

OPEC(石油輸出国機構)加盟国とロシアやメキシコなど非加盟主要産油国で構成する“OPECプラス”は6日、現行水準の協調減産を7月末まで1カ月間延長することを決定しました。

OPECプラスは5月と6月に日量970万バレルの協調減産を実施中。減産の規模は7月から770万バレルへと縮小する予定でしたが、今回の合意によって960万バレルとなる見通しです(メキシコが6月末をもって日量10万バレルの減産を停止するため)。現行水準の協調減産の延長は、原油価格を下支えしそうです。

一方で、米国で新型コロナウイルスの感染“第2波”が起これば、米景気の回復が遅れるとの懸念が市場で浮上しています。その懸念が強まれば、米WTI原油先物は下押すかもしれません。その場合、カナダドルは軟調に推移する可能性があります。カナダドル/円は目先、76.530円(5/22安値)が下値メドになりそうです。

トルコリラ

トルコの裁判所は11日、イスタンブールの米総領事館の職員に対して実刑判決を下しました。トルコ政府は“2016年に発生したクーデター未遂事件の首謀者はギュレン師”と断定。裁判所は実刑判決の理由をギュレン師の組織を支援したためとしました。これに対してポンペオ米国務長官は「有罪を裏付ける信頼できる証拠はない」とし、「有罪との判決は、米国とトルコの信頼関係を損なう」と述べました。

裁判所の判決への米国の対応に注意が必要かもしれません。米国が制裁へと動く場合、両国の関係悪化への懸念から、トルコリラは下落する可能性があります。

南アフリカランド

11日、南アフリカの4月鉱業生産と3月製造業生産が発表され、結果は以下の通りでした。
・鉱業生産:前年比マイナス47.3%(3月:マイナス18.0%)
・製造業生産:前月比マイナス1.2%、前年比マイナス5.4%(2月:前月比マイナス2.3%、前年比マイナス2.3%)

南アフリカでは、3月27日からロックダウン(都市封鎖)が行われました(ロックダウンは6月1日に一部解除)。鉱業生産の結果はロックダウンによって鉱業部門が大きな打撃を受けたことを示し、また製造業生産の結果は製造業部門がロックダウン開始前からすでに悪化していたことを示唆しています。南アフリカ経済の悪化が浮き彫りとなったことは、ランドにとってマイナス材料と考えられます。

新興国通貨である南アフリカランドは、投資家のリスク意識の変化を反映しやすい傾向があります。リスクオフが強まる場合、ランドに対して下押し圧力が加わりそうです。

メキシコペソ

9日にメキシコの5月CPI(消費者物価指数)が発表され、結果は前年比2.84%でした。上昇率は4月の2.15%から高まったものの、BOM(メキシコ中銀)のインフレ目標である3%を下回りました。

BOMは5月14日の前回会合まで8会合連続で利下げを実施。現在の政策金利は5.50%です。5月のCPI上昇率がインフレ目標を下回ったことは、BOMにはなお利下げ余地があることを示唆しており、6月25日の次回会合で追加利下げが決定されそうです(利下げ幅は0.25%か)。BOMの追加利下げ観測は本来、メキシコペソにとってマイナス材料です。

ただ、追加利下げを行ったとしても、米FRBなど主要国の中銀と比べてBOMの政策金利がかなり高い状況に変化はなく、また他国と比べて相対的に高いメキシコの実質金利(政策金利から前年比のCPI上昇率を引いたもの)も維持されるとみられます。それらを考えると、BOMの追加利下げ観測を背景に、メキシコペソが大きく下がる状況ではないかもしれません。

来週(6/15- )はメキシコの主要な経済指標の発表がありません。原油価格の値動き(メキシコは産油国)や投資家のリスク意識の変化にメキシコペソは反応しやすい地合いになりそうです。新型コロナウイルスの感染“第2波”への懸念が一段と高まれば、米WTI原油先物(原油価格の代表的な指標)は下落し、またリスクオフが強まる可能性があります。その場合、メキシコペソは軟調に推移しそうです。目先の下値メドとして、ペソ/円は4.500円が挙げられます。4.500円は、5/8&11&12&14&15の高値水準です。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想