[資源・新興国通貨3/23~27の展望] 豪、NZ、トルコの中銀が緊急利下げ。メキシコ中銀も利下げするか

著者:八代 和也
投稿:2020/03/19 16:32

豪ドル

豪ドルは今週(3/16- )、対米ドルで約17年5カ月ぶり、対円で約11年ぶりの安値を記録しました。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、各国が人の移動を制限しており、世界経済がリセッション(景気後退)に陥ることを市場は懸念しています。市場では、リスク回避の動きが強まっており、豪ドルに対して下押し圧力が加わっています。

そのうえ、豪州は石炭や鉄鉱石など世界の景気動向に影響を受けやすいものが主力輸出品であり、また人の移動が制限されることによって観光業などの主要産業も大きな打撃を受けるとみられます。そのため、豪ドルは下げが特に大きくなっています。豪ドルが下げ止まるためには、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかり、世界経済をめぐる懸念が後退する必要がありそうです。

RBA(豪中銀)は19日に緊急会合を開き、0.25%の利下げを決定。政策金利を0.50%から過去最低の0.25%へと引き下げるとともに、「完全雇用に向けて前進し、またインフレが持続的に2~3%の目標範囲内に収まると確信するまで利上げはしない」と表明。また、「3年物豪国債の利回りの目標を0.25%前後に設定し、流通市場で国債を買い入れることによって目標を達成する」とし、QE(量的緩和)の開始を発表しました。RBAの利下げとQE開始の発表(日本時間12:30)を受けて、豪ドルは対米ドルや対円でやや上昇しました。

NZドル

NZドルは今週(3/16- )、対米ドルで約11年ぶり、対円で約7年9カ月ぶりの安値を記録しました。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて金融市場が混乱していることで、市場ではリスク回避の動きが強まっており、それがNZドルに対する下押し圧力となっています。主要国の株価が安定するなど金融市場の混乱が落ち着くまでは、NZドルは引き続き下値を試す展開になる可能性があります。NZドル/米ドルとNZドル/円の目先の下値メドとして、それぞれ0.50000米ドル(心理的節目)や57.870円(2012/6安値)が挙げられます。
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RBNZ(NZ中銀)は16日、臨時会合を開催し0.75%の利下げを決定。政策金利を1.00%から過去最低の0.25%へと引き下げました。25日の会合を待たずに利下げへと踏み切りました。

声明では、「政策金利は少なくとも今後12カ月間、この水準(0.25%)にとどまる」と表明。また、「一段の刺激策が必要な場合、政策金利のさらなる引き下げよりもNZ国債の買い入れの方が望ましい」とし、追加緩和は利下げではなくQE(量的緩和)で対応することを示唆しました。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は13日、臨時会合を開催し0.50%の利下げを決定。政策金利を1.25%から0.75%へと引き下げました。利下げは4日の定例会合(0.50%の利下げ)に続いて今月2回目です。

声明では、利下げの理由を「新型コロナウイルスの世界的な流行や原油価格の急落によるカナダ経済への負の衝撃に対する積極的な措置だ」と説明。「経済成長を支援しインフレを目標に維持するために必要なら金融政策をさらに調整する用意がある」と表明し、追加利下げの可能性を残しました。

BOCの次回政策会合は4月15日。新型コロナウイルスの感染拡大やそれに伴う人の移動の制限、そして原油安を受けて、BOCは次回会合を待たずに追加利下げに踏み切るとの観測もあります。利下げ観測がカナダドルの上値を抑えそうです。

また、原油安が進んでおり、それもカナダドルの重石となりそうです。原油価格の代表的な指標である米WTI先物は18日、1バレル=20.37ドルで取引を終了。2002年2月以来、約18年ぶりの安値を記録しました。原油安の背景には、原油の供給過剰や産油国間の価格競争への懸念があります。原油価格は引き続き軟調に推移する可能性があり、その場合にはカナダドルは一段と下落する可能性があります。カナダドル/円は目先、72.150円(2011/10安値)が下値メドになりそうです。

トルコリラ

TCMBの政策金利とトルコのCPI上昇率
TCMB(トルコ中銀)は17日、1%の緊急利下げを決定。政策金利を10.75%から9.75%へと引き下げました。利下げは7会合連続です。新型コロナウイルスによって起こり得る経済や金融への影響を協議するため、19日に予定していた政策会合を前倒ししました。

TCMBはまた、「新型コロナウイルスがトルコ経済に及ぼす悪影響を緩和するための措置」を発表。銀行システムに対して可能な限り流動性を供給すると表明し、「期間最長91日のレポ取引を通じて1週間物レポ金利(政策金利)よりも1.50%低い金利でリラ建ての流動性を供給する」などの措置を打ち出しました。
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新型コロナウイルスの感染拡大を受けてトルコリラに対して下押し圧力が加わっており、リラは今週(3/16- )対米ドルで一時約1年6カ月ぶりの安値を記録しました。リスク回避は新興国通貨であるトルコリラにとってマイナス材料です。

今回の利下げにより、トルコの実質金利(*)はマイナス2.62%となり(政策金利:9.75%、CPI上昇率:12.37%)、マイナス幅はこれまでの1.62%から拡大。同じ新興国であるメキシコや南アフリカと比べてトルコの実質金利の低さは一段と際立つ状況となりました。メキシコと南アフリカの実質金利は、18日時点でそれぞれ3.30%、1.65%です。*実質金利:政策金利から前年比のCPI上昇率を引いたもの。

今回のTCMBの利下げはトルコリラに対する下押し圧力をさらに強めかねません。米ドル/円の動向にも影響を受けるものの、リラ/円は一段と下落する可能性があり、注意が必要です。

南アフリカランド

ランドは今週(3/16- )、対米ドルで約4年2カ月ぶりの安値を記録。対円(ランド/円)は米ドル/円の上昇に支えられて下げ渋ったものの、依然として過去最安値圏にあります。新型コロナウイルスをめぐる懸念から市場ではリスク回避の動きが強まっており、新興国通貨であるランドに対する下押し圧力となっています。リスク回避の動きが続けば、ランドは引き続き軟調に推移しそうです。

27日にムーディーズ(米格付け会社)が南アフリカの格付けを発表します。ムーディーズにおける南アフリカの現在の格付け(外貨建て長期債務)は投資適格級最低の“Baa3”。ムーディーズが格下げすれば、南アフリカの格付けは3大格付け会社すべてでジャンク(投機的等級)となります。そうなれば、南アフリカから資金が流出するとの懸念が強まり、ランドが下落する可能性があります。

メキシコペソ

メキシコペソは今週(3/16- )対米ドルや対円で過去最安値を更新しました。新型コロナウイルスをめぐる懸念からリスク回避の動きが強まっているうえ、原油価格が大幅に下落しており、ペソに対する下押し圧力が強まっています。ペソが下げ止まるには、リスク回避が後退し、かつ原油価格が反発する必要がありそうです。

26日、BOM(メキシコ中銀)が政策会合を開く予定です。BOMの現在の政策金利は7.00%。世界景気の先行き不透明感の高まりや原油安を受け、BOMは利下げに踏み切るとみられます。一方で、主要国の中銀のように大幅な利下げをした場合、ペソ安を一段と加速させるおそれがあります。利下げ幅は比較的小幅になりそうです。利下げ幅については、市場では0.50%との見方が有力。それを大きく上回る利下げ幅になれば、ペソは軟調さを増すかもしれません。
八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想