―日本の食卓を脅かす新型コロナとバッタ襲来、自給率向上にスマート農業活用―
新型コロナウイルスの感染拡大は、車や電子機器などの工業製品に限らず、玉ねぎなど中国を主産地とする一部農作物にも影響を及ぼし始めている。中国現地では人の移動が制限されていることで、農産物の生産に影響が出ているようだ。更に、南アジアで農作物に甚大な被害をもたらした大量のサバクトビバッタが、中国に進入するリスクも高まってきた。新型コロナウイルスとバッタ被害で、世界的な食糧需給に混乱が生じることもあり得る状況だ。こうしたなか、株式市場では植物工場関連銘柄への関心が高まりつつある。
■中国依存度高い食糧事情、輸入先多様化には時間が必要
新型コロナウイルスに関する中国の状況は、新たな感染者数の増加は抑えられてきており、震源地の湖北省以外では封じ込めが成功しつつあるとの見方も出ている。こうしたなか、中国依存度の高い農作物などへの影響も懸念される。日本では国内農業が奮闘しても、実際のところ中国産の輸入に頼っている現実がある。一時的な不作であれば他の野菜などの代替でしのげるだろうが、中小の外食などは死活問題となる。中国以外の国へと輸入先の多様化を始める動きもあるが、すぐに輸入先を変えることは困難だ。例えば、財務省の貿易統計によると、昨年2月の生鮮野菜の輸入量のうち玉ねぎ、人参、ネギ、ゴボウ、にんにくなどの8割以上が中国産だ。
現在、中国では人の移動が制限されていることで、生産や流通が停滞している。例えば、青ネギやニンジンなどは産地移行に合わせ、山東省などの労働者が福建省に出稼ぎに行き、加工を担うことが多いため影響は大きい。加工場が稼働したとしても、野菜を梱包する段ボールやビニール工場などの稼働遅れも問題となる。輸出する港においても、港湾で働く従業員の多くは移動制限で職場に戻れないため、長期化すれば流通面での影響も懸念される。
■サバクトビバッタが中国襲来も、南アジアでは農作物に甚大な被害
更に、追い打ちとなる新たな脅威が迫っている。南アジアで農作物に甚大な被害をもたらした大量のサバクトビバッタが中国に襲来する可能性が高まっている。バッタの被害はアフリカ東部から南西アジアに波及しているが、東アフリカでは大都市の大きさほどもあるバッタの群れが毎日、約180万トンもの植物、およそ8100万人分の食糧に相当する量を食い尽くしていると伝わっている。パキスタンの一部地域では収穫高の4割が被害に遭い、政府は国家非常事態の宣言を余儀なくされている。6月まで、このサバクトビバッタの大群が中国に本格的に押し寄せる可能性も指摘されている。
一方、日本の農業に目を転じれば、やはり不安がある。それが今年の暖冬の影響だ。暖かい気候で育つ野菜については良好な収穫が期待できるが、今年の雪不足により、雪解け水が不足する可能性がある。コメの収穫などにも影響を与えることになり、食糧生産の面でのリスクは高まる。
■植物工場で作物の早期収穫や大量生産も、レスターHDなどが事業展開
このような状況の中、植物工場に対する関心が集まる可能性がありそうだ。光源にLEDを、土に代わって培養液を採用し、温度や湿度、空調などすべてが管理された環境のなかで農産物を育てるのが植物工場だ。日本では農家の高齢化が進み、深刻な労働力不足に陥っている。跡継ぎや農業を継承する人材が不足し続けるなか、従来の農業が スマート農業といった形に変わっていくだろう。植物工場では、環境を人工的に制御することで、露地栽培より早い栽培日数を実現して回転率を高め、大量生産を実現したり、品質面をコントロールすることにより、消費者のニーズに合わせた野菜作りができる。
企業においても社会・環境問題をはじめとするサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題について「再生可能エネルギー」や「スマートアグリ(植物工場)」などを取り入れてきている。ESG「環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)」を重視する企業が増えてきており、事業化の動きが増えてくるだろう。また食品を扱う企業においても、スーパーやコンビニ各社などは、自社植物工場における採算性を高め、競争率向上などにも努めている。
メタノールなど基礎化学品を手掛ける化学メーカーの三菱ガス化学 <4182> は、国内最大規模となる完全人工光型植物工場を建設。施設規模は1日2.6トン以上、リーフレタス換算(80g/1株)にて約3万2000株の葉菜類の生産能力を有している。総合エレクトロニクス商社のレスターホールディングス<3156>は、傘下のバイテックベジタブルファクトリーにおいて、植物工場野菜の販売、植物工場フランチャイズの展開を行っている。植物工場は秋田県、石川県、鹿児島県など5工場が稼働。全国に複数展開することで供給不可リスクを回避、大口の供給にも対応可能としている。
■昭和産業や大気社、シンフォニア、IDEC、三協立山なども
小麦・大豆・菜種・トウモロコシの4つの穀物を扱う昭和産業 <2004> は、中期経営計画において穀物ビジネスの枠組みを超えた「アグリビジネスへの挑戦」を掲げており、社内ベンチャー的に植物工場実験プラントの建設を行い、次なる本格生産に向けた実証実験を繰り返しながら事業育成を行う計画である。ビルや工場などの空調設備工事が主体の大氣社 <1979> は、野菜の生産における「安全性」「安定供給」「高品質」といった課題をクリアできるソリューションとして注目されている「完全人工光型植物工場(ベジファクトリー)」を展開する。
人工光源(LED)を利用した植物工場は、日本国内、海外で既に普及拡大のフェーズに入ってきており、今後も関連システムの需要も安定的に伸びる可能性があるだろう。石油化学、化学品、アルミ、電子材料など幅広く展開する昭和電工 <4004> では、赤・青LEDを独立して制御することで、高生産性・高付加価値野菜の生産を両立する植物工場システムを手掛けている。
総合化学国内最大手の三菱ケミカルホールディングス <4188> では、アグリソリューション事業部において、工場型、店産店消型、ディスプレイ型、太陽光利用型植物工場システムといったタイプの植物工場を取り扱う。半導体・液晶搬送装置、医用搬送装置などを手掛けているシンフォニア テクノロジー <6507> は、完全人工光型植物工場システムを手掛ける。パナソニック <6752> は、独自の光波長分布を実現した自社開発植物工場専用LEDを使用した植物工場システムを展開。FA制御機器総合メーカーのIDEC <6652> では、独自技術である制御技術やLED技術、ウルトラファインバブル(超微細気泡)を発生させるGaLF技術を駆使した太陽光併用型植物工場栽培システムを手掛けている。
また、住宅大手の大和ハウス工業 <1925> と住宅用・ビル用アルミ建材が主力の三協立山 <5932> は、オーダーメイドで工場や倉庫などに設置可能で、事業化への対応も見据えた植物工場システム「agri-cube ID(アグリキューブ・アイディー)」を共同開発している。
株探ニュース
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