サイネックス Research Memo(7):ICT関連サービスを多数投入。今後は収益事業への発展を期待

配信元:フィスコ
投稿:2019/07/22 15:17
■中長期の成長戦略と進捗状況

3. ICTソリューション事業の成長戦略と進捗状況
サイネックス<2376>は地方創生においてICT(情報通信技術)の効能と役割は非常に大きいと考え、積極的に活用している。ICTを活用して様々な利便性の高いサービスを提供すると同時に、地方と都市との差を埋め合わせることができるというICTの持つ本質的な特長を利用し、地方創生を加速させる考えだ。

同社は現在、ICTソリューション事業の中で10を超える事業を展開している。業績寄与という点では、現状、収益モデルがある事業は5、6事業とみられ、その中で『わが街ふるさと納税』、『わが街とくさんネット』、トラベル事業の3事業で同事業セグメントの収益のほとんどを稼ぎ出していると弊社では推定している。『わが街ホームページ』と『わが街アプリ』の自治体支援クラウドサービスや、デジタルサイネージ事業の『わが街NAVI』は、契約自治体を積み上げている最中であり、将来的にある程度積み上がった段階で収益事業へと移行していくものと弊社ではみている。

ICTソリューション事業の収益化が進んでいないのは、同社がICTソリューション事業を“ビジネス”と考えていないということではなく、そこに至る途中経過だと弊社では理解している。現在は個々のサービス・施策がそれぞれ独立した形で運営されているが、ICTで他のサービスとつなげることで、利用価値や魅力度が大きく向上し、同社の収益事業へと一気に変貌するポテンシャルがあると考えられ、これこそがICT関連ビジネスの醍醐味であると言えるだろう。前述のように、同社は地方自治体や地域との共存や支援を優先するのが同社の基本的なスタンスであるため、これまでは布石を打つ段階にあったが、かなりサービスのメニューが揃った状況となった感がある。今後は、各種サービスの利用状況などを確認しながら改善ポイントの確認と改修などを進め、徐々に収益事業へと転換していくものと期待される。

(1) 『わが街ふるさと納税』事業
『わが街ふるさと納税』はふるさと納税支援事業で、自治体がふるさと納税による収入(厳密には納税者からの「寄附金」)を獲得するためのプロモーション活動や、寄附金受付に関する事務業務の代行、寄附金に対する返礼品の管理・配送業務、及び決済業務など、ふるさと納税に関する一連の業務を一括して請け負うものだ。2014年7月に茨城県笠間市と契約したのを皮切りに、2019年3月末時点で125の自治体と支援契約を締結している。同種のサービスを手掛ける企業はほかにもあり、同社は市場シェア(契約自治体数ベース)では3位にあるとみられる。

収益モデルは完全成果型報酬制だ。自治体側の初期費用はゼロ円で、ふるさと納税制度の税収実績に応じて一部が報酬として支払われることになるため、自治体の財布からの持ち出しは一切ない。自治体との共存共栄という基本姿勢を明確にした事業モデルで、経営方針と軌を一にしていると言えるだろう。完全成果型報酬を導入していることで、『わが街ふるさと納税』事業はICTソリューション事業のメインの成長ドライバーに成り得ると期待される。

ふるさと納税をめぐっては、過剰な返礼品が問題となり、総務省から様々な規制が強化されている状況にある。しかしながら、これがふるさと納税市場を縮小させることにはつながらないと弊社では考えている。ふるさと納税制度で経験した“お得感”からリピーター率は高いと考えられ、また、多くの消費者は地場産品を主体とした返礼品でも高い満足度を得ているとみられるためだ。2008年度に81億円だった納税額(「ふるさと納税受入額」)が2017年度に3,653億円になったような成長スピードからは鈍化するのは避けられないにしても、今後も着実に市場規模が拡大すると弊社ではみている。

(2) 旅行事業の成長戦略
同社は連結子会社の(株)サイネックス・ネットワークを通じて旅行事業を展開している。具体的には、『わが街トラベル』のポータルサイトを通じて、地方の隠れた魅力を体験できる特色ある旅行商品を提供している。そうしたなか、同社はインバウンド需要を取り込むべく、2018年2月に第1種旅行業登録を取得した。第1種旅行業登録をすると、国内・海外の募集型企画旅行、受注型企画旅行、手配旅行、他社募集型企画旅行代売など、すべての旅行契約を取り扱うことが可能となっている。

旅行事業の成長戦略では同社が有する全国47都道府県で培ったネットワークや、『わが街とくさんネット』や自治体支援クラウドサービスなどの他の事業とのシナジー効果が重要な役割を果たすのではないかと弊社ではみている。各地方に対する同社の知見を商品開発に生かすということだ。その1つの例として考えられるのは、ふるさと納税の返礼品として当該自治体への旅行商品を送るような仕組みだ。現在は実現していないが、ふるさと納税の一括業務代行事業と旅行事業を営む同社にとっては、実現のハードルは高くないと思われる。

収益拡大のタイミングとしては、2019年のラグビーのワールドカップや2020年の東京オリンピック、2025年の大阪万博などが考えられる。これらのイベントをうまく活用することで、国内旅行とインバウンド旅行の双方で収益機会が得られ、成長が加速する可能性があると弊社ではみている。まずは2020年3月期に、ラグビーワールドカップをどのように生かして収益を伸ばせるか、見守りたい。

2019年3月期は、前述のように天候不順や自然災害の影響で旅行商品の販売が前期比減収となり、Web・ソリューション事業セグメントの業績の足を引っ張った。しかしながら、不振の要因が構造的なものではないため、過度な懸念は不要だと弊社では考えている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)


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