「雑誌専門オンライン書店に成長性」
―顧客データ活用し新事業を創造―
●西野伸一郎氏(富士山マガジンサービス 代表取締役社長)
日本人の活字離れが続くなか、出版業界の販売金額は深刻な減少が続いている。同時に街の書店も徐々に姿を消している。いまや市場構造の変革が迫られる出版関連業界だが、そのなかで着実な成長を続けているのが、昨年7月に東証マザーズに上場した富士山マガジンサービス(3138)[東証M]だ。同社の西野伸一郎社長にその経営戦略を聞いた。
――富士山マガジンサービスの事業内容を教えてください
「雑誌の定期購読をメーンにしたeコマース(電子商取引)サイトを中心にビジネスを行っている。当社の扱う1万種類以上の雑誌と読者を結びつけ、出版社から業務報酬をもらっている。在庫リスクはなく、定期購読の継続率は70%以上と安定成長モデルを築いている」
――雑誌販売を含めた出版や書店を取り巻く環境は?
「雑誌の市場規模は15年で7800億円と縮小傾向にある。また、街の書店数も減少傾向を続けている。さらに、書店から雑誌が売れずに出版社に戻ってくる返品率も約40%に上昇している。2000年頃までは出版社と書店との関係は、うまく機能していた。しかし、いまやその構造は崩れてきている」
「一方、米国では雑誌は80%が定期購読されているのに対し、日本では10%程度に過ぎない。当社は雑誌の定期購読化を進めており、このリプレイスメント(置き換え)に成長機会があるとみている。縮小しているが、なお雑誌市場は巨大だ。当社の成長余力は大きいと思う」
――競合企業はありますか?
「日本にもアマゾン・ジャパンやイーブックイニシアティブジャパン <3658> などのようなオンラインの書籍販売企業はあるが、雑誌の定期購読に特化した企業は当社以外にないと思う。特に、当社は日本で雑誌を出している約1200社と直接契約し、1誌1誌と交渉し取り引きを進めてきた。定期購読ならではのシステムも組み込んで事業を行っている。新規参入しやすいようで参入しにくいのが、当社のビジネスだと思う」
――なぜ、日本では雑誌の直販は伸びなかったのでしょうか?
「個人的な見方だが、戦後、財閥解体の頃にさかのぼり出版社と取次・書店によるムラ社会が形成されてきた経緯があると思う。全ての流通は取次・書店を通すというムラ社会が出来上がり、直販は許されなかったのだろう。その後、一部ビジネス誌などには定期購読による直販を進める動きがあったものの、それ以外は、出版社は直販を控えてきた。しかし、もう販売面での書店への依存はできない。いまもムラ社会は残っているが、業界は変わっていくし、変わらないところはなくなっていくと思う」
――改めて雑誌の定期購読による直販のメリットとは?
「出版社には返品のリスクがない。また、再販制度で書店では雑誌の割引はできないが、定期購読になると同制度の弾力的運用で、販売価格を割引することもできる。読者にとっては購読料が割安となったり、プレゼントがついたりすることなどの特典がある」
「当社が一般の書店と異なることは、定期購読を申し込んだ雑誌の読者情報を持っていることだ。雑誌の定期購読者のデータは趣味や嗜好を反映した濃い情報となる。このビッグデータを活用して出版社と協力することで、例えば読者を対象にした物販を手掛けたりイベントを開催したりするなどの会員ビジネスができる。ここに新たな成長モデルが見出せる」
――今後、富士山マガジンが目指す姿とは?
「富士山は長い裾野を持つ日本一美しい山だと思う。その裾野は、eコマースでのロングテールを象徴しているとも捉えられる。人々の趣味嗜好は幅広く広がっている。その広がるデータを活用できる会社になれればいいと考えている」
(聞き手・岡里英幸)
●西野伸一郎(にしの・しんいちろう)
富士山マガジンサービス代表取締役社長。1964年東京生まれ。88年NTT入社。98年ネットエイジグループ(現、ユナイテッド)取締役。99年アマゾン・ドット・コム、Japan Founder(日本創業者)。2002年に富士山マガジンサービス設立。●富士山マガジンサービス
国内最大級の雑誌定期購読サイト「Fujisan.co.jp」を運営している。取り扱う雑誌数は紙媒体で1万以上、デジタル誌2600強(15年6月末)。国内で流通するほぼ全ての雑誌を扱う。出版社からの手数料を主な収入源としている。
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