3月の暴落とその後
3月の暴落とそれからわずか半年間に見せた上昇。2020年ほど投資環境がダイナミズムに満ちた年はなかったと後年まで語り継がれることは間違いないだろう。日本では日経平均株価が2月21日から3月19日にかけてわずか1ヵ月足らずで30%近く急落。それほどの暴落となりながら、わずか半年後の9月3日に日経平均は2万3465円まで上昇した。
少なくとも株式市場はコロナ危機から立ち直り、コロナ後の世界に足を踏み出している。目下の株式市場で大きなテーマとして意識されているのは、コロナ後の世界で勝者となるのは何か、ということだ。
世界はコロナ前とコロナ後で大きく変わった。できるだけ人との距離を取り、接触を避けるという原則が社会の姿を急速に変えている。テレワークの推進によりビデオ会議システムを提供する企業の業績が急拡大する一方で、都心へ向かう人の数は減少し鉄道会社や小売企業は逆風にさらされている。会食の自粛で外食企業の多くが収益減に苦しむ一方で、自炊の増加が郊外食品スーパーの業績を押し上げ、出前やテイクアウトに注力する外食企業はむしろ収益を伸ばしている。
コロナ前後、不変の価値と高まる評価
一方で、コロナ前後でもその価値が変わらなかったものも確かに存在する。冒頭で取り上げた「健康」がそれだ。
MSCI日本・ヘルスケア(配当込み)指数は、その名の通り日本のヘルスケア関連企業に投資する指数だ。コロナショック前後の指数の推移をTOPIX(東証株価指数)やS&P500種指数と比較してみると、ヘルスケア指数は他指数と比較しても下げ幅を押さえ、良好なパフォーマンスを示している。好調な理由は明白だ。感染症が猛威を奮う中で、ワクチンの早期開発に向けた取り組みや健康を維持することの価値が高まり、それがヘルスケア関連企業の評価を高めているのだ。
だが、「健康」の価値は、もはやヘルスケアという単純な分類では測ることはできない。
なぜなら医療とITの融合により、「健康」を担う産業が拡大しているからだ。

出典:MSCIヘルスケア指数・SP500・TOPIX
成長産業としてのヘルスケア
海外ではヘルスケアIT関連ベンチャーへの投資が進んでいる。経済産業省「ヘルスケアIT分野への民間投資活性化について」によると、その額は米国では日本の100倍、欧州・中国では15倍に達しているという。一方で、日本はIT関連ベンチャーへの投資が遅れており、AIやIoT、ビッグデータ活用といった最先端テクノロジーを活用したイノベーションが期待されている。
ヘルスケアIT関連ベンチャーへの投資額の比較(2017年)

ヘルスケアIT関連ベンチャー : ソフトウェア・ハードウェアの両方を含む、情報技術を扱うヘルスケア企業
(出所) エキスパートインタビュー
医療とITという価値観を基軸にした「健康」に関する投資対象は多岐にわたり、ヘルスケアセクターには収まらない銘柄も当然多い。
なかでも今年、最も華々しい成功を収めたのはエムスリー<2413>
だろう。医療業界という非IT領域にメディカルプラットフォームを構築し、医療情報専門サイトなどを展開する同社は、ソニーと画像診断支援AIの開発で協業するなど、コロナ禍でも医療とITを掛け合わせた分野で新たな事業を創出し、大きく飛躍している。設立が2000年、上場が2004年と、企業としてはまだ若い部類だが、時価総額は2020年9月時点で4兆円台に乗せている。10年前の年初時点の時価総額は770億円。つまり、10年で企業価値を50倍以上に高めたことを意味している。10年前、2010年3月期に118億円だった売上高は2020年3月期に1309億円に、19億円だった純利益は216億円まで伸長した。同社が位置付けられる業種はサービス業だ。
あるいは、意外な企業が健康に関連している場合もある。エアコン製造・販売で世界シェア上位のダイキン工業<6367>
は、空調という居住環境を良好に保つために必須の技術を保有しているという点で、健康には欠かせない製品を提供している企業と言える。同社は、付加価値の高い空調を社会へ提供していくうえで、スタートアップ企業との協業を通じ、AI・IoT技術の積極的な活用を進めている。同社のセクターももちろん医薬品ではない。
このように、ヘルスケアセクターに属す企業のみならず、医療の質を高めるイノベーションの中心となる企業を見つけ出し、定点観測し、正しいタイミングで投資し、保有の継続と利益確定の判断を的確に下し続けるにはどうすべきか。一つの方法として検討したいのが、健康をテーマにしたファンドへの投資だ。
"健康応援企業"への投資
健康をテーマにした幾つか存在するヘルスケアファンドの中で、取り上げたいのが「ニッセイ健康応援ファンド」だ。同ファンドはヘルスケアファンドにも関わらず、「医薬品」「医療機器」以外の銘柄が5割以上に達する場合もあるという特徴を持ち、この柔軟な姿勢で高い運用効率を目指している。
同ファンドの分配金再投資基準価額の2020年の年初から9月15日までの騰落率は+5.7%と、TOPIXの-3.3%を大きく上回っている。3月16日から9月15日までの騰落率では+42.8%。TOPIXは+32.7%だ。過去10年(2010年9月~2020年8月)では+329.3%。同期間のTOPIXは+194.8%。コロナ前、コロナショック中、コロナ後を通して良好な成績を残している。
好成績の一因となっているのが、組入業種の割合だ。一般的なヘルスケアファンドの組入業種は「医薬品」「医療機器」が中心となるが、これらの業種は薬価引き下げや診療報酬改定など、国の制度改定の影響から逃れられないという固有のリスクがある。これにより株価が不安定になるケースもあるが、同ファンドのコンセプトは健康への貢献につながる企業理念・哲学をもつ企業を“健康応援企業”として選定し投資すること。このコンセプトの故に、同ファンドは「医薬品」「医療機器」といった業種にしばられることなく、値動きの傾向が異なる幅広い銘柄への投資ができるようになっている。これこそが高い運用効率を目指すことができる理由の一つなのだ。
特筆すべきは、先に紹介したエムスリーやダイキンのような銘柄を、株価が急上昇を開始する前からファンドに組み入れていたことだ。一般的なヘルスケアファンドで見落とされがちなこれらの銘柄を組み入れてハイリターンを目指せたのは、“健康応援企業”を選定し投資するというコンセプトがあってこそだ。これが多岐にわたる健康に関連した企業からいち早く成長企業を見つけ出す銘柄選定力につながっている。
新型コロナウイルスは早期に撲滅される可能性は低く、今後、健康の価値はより一層高まっていくだろう。さらに、医療とITの融合によって、健康を担う産業の成長が加速していくことを考えると、「ニッセイ健康応援ファンド」は高い投資価値を有していると言えそうだ。
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