【井川純一の今夜も兜町で一杯】 人情深川、涙が滲む

　３月１日（水曜日）の日経平均株価は２７４円５５銭高の１万９３９３円５４銭と大幅続伸。心配されていたトランプ大統領の演説も無事通過、安心感から後場大きく買われる展開。まあ、取りあえずほっとしました。
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　昨晩は妙に腰のあたりがじんじんして、こりゃ、ギックリ腰になるんじゃないのかと少々不安になって早々に帰宅しようと思っていた矢先に、「一杯やんない？」との誘いが入る。そうなると酒飲みの習性で、「ほいよ」と即座に答えてしまう。ダメな人間なのである。

　集合場所は地下鉄東西線で茅場町の隣駅、門前仲町。下町風情が漂う街だ。集まったのは元証券記者、元商品マン。もともとこの街は当方の縄張りで、若いころは毎夜毎晩管を巻いていた地だ。ただ、最近は時折訪れる程度で、無沙汰している店も多い。ただ久々とはいえ、勝手知ったるなんとやらで、「俺について来いや」とばかりに、馴染みの焼鳥屋に向かう。

　が、立て付けの悪い戸を開けると若いママがいる。記憶が正しければ、そこそこのおばさんだったような気がする。店内は満員、ママも代替わりしたらしいので退散し次の店へ向かう。「ここはバッチリ顔が利くから、混んでいても詰め込んでもらえる」と言いつつドアを開けると、こちらも混んでいる。大将に「よっ、久しぶりっす。4人は入れる？」と聞くと、「こいつ誰だっけ？」といった、明らかに怪訝な顔で「悪いね、無理だわ」と、あっさり断られた。

　友人らからは、「まったく顔なんか利かねぇじゃんよ」と責められ、次第に悲しくなる。しかし不運は続く。次に訪れた店は既になく、まったく違う店になっていた。オヤジ3人は、もはやあきれ顔である。仕方なく、チェーンの居酒屋に入ろうとした時だった。

　「あら、久しぶりねぇ」と声がかかった。振り返ると懐かしい顔が、そこに見えた。オヤジさんが亡くなり店を閉じたと風の噂に聞いていたのだが、お母さんが一人で再び店をやりはじめたのだという。暖簾をくぐると懐かしい店内。20年ほど前と、ほとんど変わっていない。

　だし巻き卵に焼酎のお湯割りが、春先とはいえ夜風にさらされた身に染みる。怪しいオヤジ4人組、ここは胡散臭い相場の話は無用とばかりに、ひたすら黙って杯を空けた。「寒かったわよね」とお母さん。優しい言葉に、涙が滲む。ああ、やっぱり門仲は人情深川なんだよなぁ。
《ＫＣ》

出所：株経ONLINE（株式会社みんかぶ）