リスクオンの地図、2つの世界“緩和継続”と“引き締め開始”が導く未来(後編) <三編集長座談会>

配信元:株探
投稿:2017/09/25 09:46

―株式・為替・コモディティ3人のスペシャリストが語る2017年秋相場の行方―

株式投資サイト「株探」「みんなの株式」、外国為替情報サイト「KlugFX」を中心にマーケット情報、分析記事を日々配信するminkabu PRESS編集部。その株式、為替、コモディティの各分野を統括する3人のベテラン編集長が一堂に会し、リスクオンに転じた絡み合うマーケットを立体的に俯瞰、今後の見通しを展望する。

○出席者
中村潤一(株式担当編集長)、山岡和雅(外国為替担当編集長)、森成俊(商品先物担当編集長)

※「リスクオンの地図、2つの世界“緩和継続”と“引き締め開始”が導く未来(前編)」より続く

■小型株優位は継続、マーケットはテーマに飢えている

――東京株式市場では小型株優位の相場が続いてきましたが、円安の可能性が高まっているとなると、主力輸出株への資金回帰も予想されます。小型株の圧倒的優位から一度大型株へと戻し始めるのでしょうか。

中村 日経平均をみるとアベノミクスの頂点が2万0868円だったのですが、そこが1つのポイントになります。そこから上を見ると、やはり節と言えるものが、今2万2000円近辺までないんですよね。ファンダメンタル的にも、2万1000円ラインはそんなに難しい水準ではありません。ただ、やはり「ここから少し円高でしょ?」という見方が強かったので買い控えられていた部分がありました。ところが、そうでもなくなってくると、当然修正の動きが出てきます。とりあえず、今の時点ではだいたい18年3月期の主要企業の経常利益ベースで前年比で15%程度の増益。続く19年3月期についても伸び率は若干鈍りますが、おそらく増益基調はキープできるでしょう。ということであれば、収益面から見て今の日経平均の水準は、割安であると言えると思います。

ただ、物色の対象ということで言いますと、いまの中小型株優位の相場は一時的な現象ではないんですね。仮に日経平均が2万円から2万2000円まで戻したとしても10%ですよね。日経平均との連動性の高い大型株の主要銘柄はだいたい1割の上昇。いまの小型株相場では、時価総額の小さい、例えば500億円以下レベルの企業であれば、一日で10%ぐらい軽く動いてしまいますよね。ファンタメンタルズから妥当性あるとは言い切れないけれども、そのぐらい市場に資金が溢れているっていうところだと思うのですよ。これは、必ずしも個人投資家の短期売買だけではなくて、海外系の中小型株ファンド、あるいは国内系でも一部短期資金で運用するファンドなどの資金がかなり流れてきています。その流れの中で全包囲的な底上げという、全体相場にとっては大変心地良い状況が続くのではないかと見ています。

――大型株への回帰は起こらない?

中村 大型株への回帰はもちろん起きますが、上値の余地という点では、やはり10%とか15%っていう範囲になってくるわけですよね。それに対して、いまのマーケットでは中小型株については、それが20%・30%というレベルの上値の可能性を十分に内包しているというふうにみています。

――9月前半の相場が良くなかった時も、一部のテーマ株物色が非常に盛んでした。その状況はこれからも変わらないと。

中村 変わらないですね。いま、まさに凄いことになっていて、ほんとに「テーマに飢えている」ようなところがあります。新しい話しが出てきて、それに収益の成長シナリオを感じれば、一気に資金が寄ってきますね。昨日も、量子コンピュータは実際問題としてどのくらい企業収益にインパクト与えるのかは正直、未知数といえるわけですが、関連銘柄はストップ高するものも多かったです。

――――昨日、中村編集長は量子コンピュータを記事で紹介していました(中村潤一の相場スクランブル 「テンバガー宝庫! 量子コンピューター関連」)。 

中村 投機性の強い資金と言ってしまえば、それまでなのですが、そういった全体地合いにあるということが、重要だと思うんですよね。北朝鮮リスクに振り回されるところはありますが、それをおいてやはり非常に投資家資金が温まっているなという印象を受けますね。

■2017年秋のリスクシナリオは

森 先ほど中国の景気拡大に伴う一次産品の需要拡大について述べましたが、1つリスクはあると思います。鉄鉱石、非鉄関連の上昇に乗じて天然ゴムの価格も、9月に入ってかなり上がりました。実際なぜ上がったのかを、いろいろ紐解いてみると、特にファンダメンタルの改善はないということなのですよね。ファンダメンタルの改善なき急騰だったわけです。先週15日に、ゴムの主要生産国であるインドネシア、タイ、マレーシアが集まって会合を開き減産を協議しましたが、ファンダメンタルズの裏付けはなく、今回のゴムの急騰は投機だという結論になりました。で、今週に入ってからゴム価格は急落しています。商品は物によっては、投機の対象にされる可能性が高く、リスクがあります。株式市場では商品と連動性がある銘柄もありますが、その辺のリスクもあるということですよね。

一方、金相場は危険(リスク)に対するバロメーター価格ですので、投資家のリスク心理が高まると、金価格は上がります。金価格は3ヵ月以上、200日移動平均線を上回って推移しており、だいたい50ドル以上プレミアムがついている状態です。リスクによる連動幅は非常にボラティリティが高いので、金相場の売買ではこうした点も要注意ポイントになります。

――商品に関してはリスクシナリオが少し見えている状態なのですね。

中村 株式市場では非鉄関連株が非鉄市況と非常に連動しやすいのですが、ここのところ少し動きが鈍くなっています。これはそういった背景をやはり微妙に読んでいるのかなという感じはしますね。

――為替ではリスクシナリオは何かありますか?

山岡 そうですね、資源価格の上昇は、豪ドルとか南アランドといった資源国通貨の上昇に繋がるのですが、思ったほど伸びていないという印象です。一時期に比べて、特に夏場のオーストラリアドルは、ニュージーランドドルなどと比べても伸びませんでした。その辺のコモディティ相場の今後の動向への警戒感みたいなものは抱えてるなという感じですね。

――コモディティの価格が上がり始めたと言っても、2007年・2008年頃の価格に比べたら遥かに下です。資源国通貨は、当時のような強さはさすがに望みにくいのでしょうか。

山岡 金利面が当時とは全然違いますからね。結局、オーストラリアもニュージーランドも政策金利が史上最低水準という状況が続いています。しっかりと利上げに回るほどの体力がないという状況です。また、経済構造的に、今後の中国経済次第というところが、どうしてもあります。こうした中国依存のリスクをどのように投資家が捉えていくのか。オーストラリアやニュージーランドには金利を狙いにいく、ある程度中長期的な資金が入りやすいのですが、思うほどお金は流れていないという現状は実際あると思いますね。

――主要国の金融政策についていうと、まだまだ現状維持が続くということでしょうか。

山岡 現状維持ではなく、日本以外は引き締め方向ですが、ゆっくりとした動きになると思われます。アメリカに関しては昨年12月から利上げ局面に入り、バランスシートの縮小も早期に開始される見込みですが(対談後10月からの開始が決定)、このバランスシートの縮小にしても、現状が大きすぎる(4.5兆ドル)のであって、あくまで正常化に向けた動きであって、引き締めというものではありません。そのやり方にしても、持ってる証券を売りに行くわけでなく、満期になったものの再投資をしかも一部取りやめるというだけです。じっくりとやっていく話なので、そこまで大きな影響は出てこないのではないでしょうか。

――米国株はバランスシート縮小を織り込んだうえで史上最高値を更新していますが、日本株の見通しはいかがでしょうか。

中村 ファンダメンタルズ面からは今の株価水準は決して割高ではないと見ています。ただ、ここにきての上がり方が少し急です。9日を過ぎ、リスクオンに変わってからの日経平均は11日、12日と窓を開けて買われて、直近19日にも大きく窓を開けています。よく「三空に売り向かえ」と言われますが、連日ではないものの直近3つ窓を開け、さらに本日21日前場の時点でも開けてきているという状況は、相場がやはり行き過ぎに変わっているといえます。

セオリー的には、その窓をどこかで一度埋めに行くタイミングが訪れる可能性は否定できません。それが今週開けた19日の窓だとしても、2万円を一度割ってくる計算になります。2万円台は盤石というわけではなく、大台割れの局面はやはり想定しておかなければなりません。

■回復傾向のトランプ大統領への期待感

――日本の景気回復の遅れがいわれる一方で、一般メディアでは米国や欧州の景気好調はあまり伝わってきません。

山岡 トランプ大統領に対しては批判もありますが、彼の政策を実現していくと、明らかにアメリカ経済は持ち上がってきます。では、その財源はどこにあるのかという話になりますが、財源問題も含めて議会と何とか上手くバランスをとっていけそうだなという期待感がいま高まっています。今後の議会とホワイトハウスの関係を含めた動向に期待というところですね。欧州も移民問題に揺れながらメルケル首相の支持率が一気に回復してきたように、ドイツなどの景気はかなり好調です。英国もブレグジット問題を抱えていますが、足元の景気はかなり強くなっています。

中村 国内では衆院の解散総選挙の見通しが強まっていますが、過去の経験則的には「選挙イコール買い」なのです。特に海外マネーは日本の政策変化を好む傾向があります。今回の選挙では安倍首相の狙い通り政権の盤石化をもたらす可能性が高いとみていますが、それは株式市場にとってはポジティブであると純粋に考えて良いと思います。

中村 ただ、今回の選挙公約である福祉、教育の無償化などは増税が前提になっており、株式市場にとってフレンドリーとはいえません。これをどのように市場が織り込んでいくのか。選挙まではお祭り的なムードがありますが、必ずしもこの選挙を境に相場が上にいく、その足場になるとは言い切れない、こうした見方をする市場関係者は多いですね。選挙後は現実に引き戻され、市場は今のような「イケイケ」ムードとは違う雰囲気になるのではないかなと思います。

――選挙後ですが、テーマに乗っている銘柄に関してはどうでしょう。

中村 それはもちろん上がると思いますね。今の相場テーマであるリチウム電池はもう世界的な規模の話ですし、有機ELにしても今回「iPhone」への採用で話題になりましたが、これからは大型テレビ向けにも普及していくことで、世界的に各社が増産に向けて動き出しています。日本のみならず、中国、欧米でも主要な関連銘柄が買われており、この流れは、なかなか収まらないと思いますね。

――森編集長、商品に関して留意すべきことがありましたらお願いします。

森 すべての商品が上昇するわけではありません。中には長期低迷している商品もあります。その辺はファンダメンタルズと、投機資金がどこに流れていくのかを、しっかりと把握する必要があります。プラチナは普通であれば金より価格が高いのが常識ですが、いま350ドルぐらい金より安いんですよね。電気自動車へ切り替わっていくことで触媒としての需要が減るのではないかということが、長期低迷の要因となっています。商品を投資対象として選ぶ場合は、需給の動向と中長期資金がどこに向かっているのかの見極めが必要となってきます。

(9月21日収録の対談を掲載)

【編集長 プロフィール】

○中村 潤一 なかむらじゅんいち 【株式情報担当編集長】
1990年「市場新聞社」に入社、「株式市場新聞」の経済記者に。98年4月に株式専門誌「株式にっぽん」に異動、99年1月に「株式にっぽん」編集長に就任。2011年12月にみんかぶグループ入り。以降、同グループの金融情報制作部門の中核メンバーとして現在に至る。

○山岡 和雅 やまおかかずまさ 【外国為替情報担当編集長】
1992年チェースマンハッタン銀行入行後、1994年ロイヤルバンクオブスコットランド銀行(旧ナショナルウェストミンスター銀行)に移籍。10年以上インターバンクディーラーとして活躍した後にGCIグループに参画。2016年3月にみんかぶグループ入り。外国為替分析のプロとしてメディア出演や講演多数。日本証券アナリスト協会検定会員。

○森 成俊 もりなるとし 【商品先物情報担当編集長】
1992年より商品先物業界でアナリスト業務に従事。貴金属、原油を中心に幅広く商品先物市場について分析。2016年3月にみんかぶグループ入り。ラジオNIKKEI投資情報番組「マーケット・トレンド」にてコメンテーターを担当。

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