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「あー、これが小林秀雄だよ」って話

何ごとについてもうるさい小林秀雄をそこに紹介したのは僕だ。

小林さんたちがよく行く銀座の鮨屋なるものがあって、

鎌倉の終電族たちの中では評判だったので行ってみたらなんてことのない平凡な店だった。

 

いつか一緒になった終電で鮨が話題になったので、

僕が小林さんたちが常連の鮨屋をこきおろして「喜楽」を勧めたら、

小林さんが常連の連れの今日出海さんに、

「ならコンちゃん、行ってみてやろうじゃねえか」いったので、

「あそこがまずけりゃ後で僕の奢りにしときますよ」偉そうにいったものだ。

 

その後暫くしてまた終電で一緒になった時、

「どうでした『喜楽』の鮨は」いったら、

「ああ、なかなかいけたよ」

「でしょう。あそこに比べたら他の鮨屋は幼稚なものでしょうが」

居丈高にいったら、小林さんがむかっときたのか、

 

「お前ね、『喜楽』の鮨は鮨じゃねえんだよ。あれはな、『喜楽』という料理だ。

鮨というのはな、もっと下品なものなんだ。いいかい、鎌倉の駅裏に鮨屋が一軒あるだろ、

あれが鮨屋だ。種も少なくって、夜遅く行きゃガラスのケースの中に蠅が一匹入ってやがる。

あれが鮨ってえもんだ」

 

負け惜しみでいうから、

「なるほど、それが小林秀雄の美学ですか」いったら、

「馬鹿野郎」と一喝されちまった。

 

   *

「男の粋な生き方」

 石原慎太郎著 幻冬舎 2016.4.1.第1刷 第六章:食の味わい P.99~100より抜粋

 

そーそー、小林秀雄って、こういう風にしゃべるの。

ってことを、それまでにも小林秀雄関連の書籍を読んでいる人なら、

即座に感じるだろう。

なので、あーこの話はホントウにあった話なんだなぁとわかる。

 

「君の哲学は」など、いろいろな表題のエッセーを集めた書籍。

北方謙三親分とか、西村賢太とか、三島由紀夫とかもちらりと出てきたりして、

なかなかオモロイので、一気に読んでしまう。

 

作家の書くエッセーというものは、

作家の書く小説よりも、ハズレがないんじゃなかろうか。

 

 

 

 

登録日時:2016/04/18(09:41)

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