ユリウスさんのブログ

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芥川賞受賞作「乙女の密告」を読む

 第143回芥川賞受賞作、赤染晶子の「乙女の密告」を読んだ。小説の舞台は京都の外国語大学、主人公はみか子(という自信のない影の薄い女学生)が話を導いてくれる。こう書くと軽い学園物の印象になるが、扱うテーマは大変重い。中身は人間のアイデンティティを扱う。大学のスピーチコンテストの課題が有名な「アンネの日記」だから、なおさら「人種差別」や「密告」、「自分は何人? 何者か?」を問うことになる。



 といっても、そこは小説、なかなか面白い仕掛けがなされていて読ませる。(翔年は中学生のときに「アンネの日記」は読んでますが、読んでいなくても小説は楽しめるようになってます)

 例えば
小説では1944年4月9日が一番大事な日だとされる。「アンネの日記」ではこの日、隠れ家の隠しドアのすぐ後ろまで警察がやってきた。見つかれば、アンネ達は逮捕される。その日の夜、アンネは日記に書いた。
『私達は今夜、思い知らされました。私達は隠れて暮らす身なのです。私達は鎖につながれたユダヤ人なのです。』
 一般に「アンネの日記」で一番大事な日といえばその6日後の15日、アンネが一緒に隠れている少年ペーターとキスした日とされている。だがこの小説では9日に拘る。読者は?? と思う。こういう仕掛けは他にもあって、読者を謎解きに誘う。

 翔年は「乙女の密告」を一回しか読んでいない。読み込んでいないので書評は書けない。幸い、芥川賞の選考委員9名が選評を書いている。これが大変面白くて小説の理解を助けてくれる。他人のふんどしで相撲を取るそしりは免れないが、9名の作家が「乙女の密告」をどのように評価しているか、その一部をお伝えして、責を果たすことにしたい。(小説の多様な読み方のサンプルを見るようで、面白いです)


小川羊子 ◎
赤染さんの才能を証明していると思う。

黒井千次 ◎
堅固な構造をもつ小説である。構えの大きさとその中で話を展開しょうとする姿勢に好感を抱いた。

村上 龍 ×
「人種差別は絶対的な悪だが、悲しいことに誰もが密告者になり得るという真実は、もっと綿密に、そして抑制してかかれなければいけないと思う。

池澤夏樹 ◎
思想の訴えと言ってもいい。その一点に向かって舞台が用意され、役者が選ばれ、台詞が行き交う。全てが巧妙に準備されている。

川上弘美 〇
アンネの苦しみと「乙女」であることについての主人公のアイデンティファイのしかたのつながりにかんしては、わたしはほんのすこしの危惧をかんじました。

石原慎太郎 ××
所謂ただ技巧的人工的な作品でしかない。こんな作品を読んで一体誰が己の人生に反映して、いかなる感動を覚えるものだろうか。

山田詠美 ◎
久しぶりに、言葉が一番!の小説を読んだ気持ち。面白くって仕方なかった。小説の世界だけに存在するユーモアは希少価値。

高樹のぶ子 ×生死のかかったアンネの世界に比べて、女の園の出来事が趣味的遊戯的で、違和感がぬぐえなかった。

宮本 輝 ×
その造りが正しいか正しくないかの次元とは別の強い抵抗を感じて受賞に賛同しなかった。
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