ユリウスさんのブログ

最新一覧へ

« 前へ342件目 / 全702件次へ »
ブログ

『ZIGZAG オロロロの丘』 

 先日、親しい友5人の集いの後で、T氏から「友達が書いた本や。読んでみて!」と宮嵜亀著『ZIGZAG』を貰った。手にとって見ると白い腰巻に坪内稔典の「『我思う故に我ありところてん』は亀さんの秀句。この本、その亀さんの軽妙、清爽な俳文集である。」と本好きがすぐ読んでみたくなるようなうまい宣伝文句が目に飛び込んできた。



 本のタイトルはアフリカのケニアに「オロロロの丘」というのがあるそうで、オロロロとは現地のマサイ族の言葉でZIGZAGを意味することに因んでつけられたらしい。

 一読した直後、「文章は水準以上、俳句は胸に残るのもんはないな」と思った。ところがこの本、あとがきの後に「収載句一覧」として「春」「夏」「秋」「冬」「無季」の別に、百句足らずが並べてあった。それで俳句だけをもう一回味わうことになった。
 そうすると、どうだろう? 気に入った句が俳文の中に埋め込まれていたことに遅まきながら気づかされた。

 そして、日が経つにつれて、本の装丁のしぶさ、文章の爽やかさ、作者の人柄などの相乗効果で、この本をこのBlogの読者に紹介したい気落ちが湧いてきた。俳文はじわじわ効く漢方薬か?
 紀行本なのに写真が一枚もないのも、文藝本をお好みの読者にはうれしいことかも知れない。



 上手いなと思った箇所と2,3の句をご紹介したい。
「ジャカランダ ツアーパンフレットなどでは、アフリカの桜と呼ばれている。その並木道。道の両側に生える15メートル以上もある大木には濃緑の葉が茂る。蕾を一杯つけたものから、満開のもの、すでに散り始めて花弁を路上に散らしているものなどさまざまだ。紫色の花が満開の大樹には独特の雰囲気があり、その下を肌の黒い女性がゆるやかに歩いて行くケニアの街は絵画のようである。」
→ 上手い! なかなかこうは書けない。ケニアの町の想像が拡がる。
一つだけ注文あり。「独特の雰囲気」は抽象語であるので、ケニアの町もジャカランダもしらない翔年(読者)は、作者の言う「独特の雰囲気があり」が皆目見当がつかない。独特の雰囲気とはどんな雰囲気なのか、ぜひ作者の筆で具体的に伝えて欲しかった。



枇杷咲いて小町は老いて酒豪なり      宮嵜 亀
→ 翔年はこういう句を好む。人生70年を噛みしめるにふさわしい。
想像力を働かせて、作者と小町さんの人生はどんなだったのだろう? と思う。
1 蜂のみの知る香放てり枇杷の花      右城墓石
2 君嫁(ユ)けり遠き一つの訃に似たり     高柳重信
→ 1、2があって、老いた酒豪に再会したと思えばなお楽しいですね。

脳細胞若干溶けている日永     宮嵜 亀
→ 老眼がすすんでいるのに、翔年は眼鏡なしで本を読んでいる。「日永」を「日本」と読んで「そのとおり!」と膝を打った。あとで「日永」とわかった。(笑)
 昨今のたるんだ日本社会の批判ではなく、自嘲句であったので、ちょっとだけガッカリ。

虎杖や一両で来るローカル線       宮嵜 亀
→ こういう山村の情景は大好き。田舎にふるさとを持つ人は皆そうではないのかな?
山百合と駅長だけの山の駅     森泉双輪


(謝辞)
 いい本をくれたT君とすばらしい俳文と俳句で、何かわからないいいものを胸にとどけてくれた作者にあつくお礼をいいます。

※ 宮嵜 亀著『ZIGZAG オロロロの丘』れんが書房新社 2010年5月31日刊 1,500円。
コメントを書く
コメントを投稿するには、ログイン(無料会員登録)が必要です。